誰も知らない巨大不明生物『シン・ゴジラ』
シン・ゴジラ
漂流船
被曝する栄光丸
『サンゲリア』ニューヨーク湾を漂流するMORNING LADYⅡ。シークエンスがあまりにも似ているが、イタリアのゾンビ映画を真似る理由がない。
東京湾を漂流する船から始まりますが、これは初代『ゴジラ』からの引用です。1954年3月にビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験に巻き込まれて、漁船第五福竜丸が被曝する。『ゴジラ』が公開されたのが1954年11月。第五福竜丸の事件を踏まえ、水爆実験によって目覚めたゴジラによって、貨物船栄光丸が被曝するシーンから始まります。
『シン・ゴジラ』で漂流しているのはGLORY MARUで、栄光丸に引っ掛けた名前です。仕切り直した『ゴジラ』(1984)も漂流船から、カイジュウ映画『パシフィック・リム』(2013)も、漁船がカイジュウと遭遇するところから始まりました。
怪獣映画ではないのですが、異様にそっくりなのが『サンゲリア』(1979)。ニューヨーク湾を漂流する無人のヨット、無線でのやり取り、パトロール員が乗り込んでみたら…こちらではゾンビが飛び出します。
α:ニコニコ動画風の画像が混じるのは庵野監督と川上量生に繋がりがあるからかな。川上量生は庵野秀明の会社カラーの取締役をやってる。
ニュース番組風の映像も混じるけど、テレビ画面で観ると普段見てる番組と変わらないから、変にスケールダウンしてみえる。映画館で観たほうがいい作品だと思う。
日本のいちばん長い日
前半の会議シーンの連続は岡本喜八監督作『日本のいちばん長い日』(1967)を踏まえています。昭和20年8月14日から15日にかけて開かれた、ポツダム宣言を受諾して降伏するか否かの会議と混乱を再現した映画。名前と役職がテロップで出るところもよく似ています。
岡本喜八監督の写真が、作中で牧吾郎博士として使われてますね。
蒲田上陸
α:ボートや瓦礫が押し寄せるシーンは東日本大震災の津波を思い起こさせるよね。監督自体は、あの震災や原発の対応に意見がしたいというよりは、東京のど真ん中で原発事故のような大災害が起こったらどうなるというシミュレーションがしたかったように思う。
作中で東日本大震災について触れられることはないね。被害を受けた方、関係者がたくさんいるから触れられないと思うんだけど。
α:蒲田の第二形態は本当に気持ち悪い。最初に見た時にゴジラだとは思わなくて、これとゴジラが戦うんだと思った。
事前情報が全然出なかったんだよね。話もゴジラの形態も分からなかった。
α:ゴジラって元々何なの?
最初のだと水爆実験がきっかけで出てきた恐竜の生き残り。これまでのゴジラ映画は基本的に1954年にゴジラが出現したことが事実としてあって、映画の登場人物はゴジラを知っているんだけど、本作では過去のゴジラはなかったことになっている。作中の人物はゴジラを知らないし、観客としてもイメージと違うゴジラが出てくる。そういう意味で新ゴジラではある。
タバ作戦〜都心壊滅
ゴジラの身長が118.5m、いちばん高いマンションがパークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーで203.5m
多摩川で自衛隊が迎え撃ちますが、ここの流れが見事だと思います。武蔵小杉駅周辺は再開発が進んでいて、150〜200mのマンションが局所的に建っているので、ゴジラの高さの比較がしやすい。そこから北に1km、多摩川を越えて東京に入られたら負けというのも分かりやすい。
攻撃ヘリの準備完了から順に統合幕僚長、防衛大臣へと状況が伝えられ、総理大臣が攻撃を指示すると、それが逆に戻っていく。攻撃は20mmガトリング砲から始まって、戦車砲、ロケット、爆撃とエスカレート。しかしゴジラには効果がない。日本の国家最大の意思と武力をぶつけても止められない、ゴジラの圧倒的な強さが分かりやすく示されます。
α:躊躇して会議を繰り返しているうちにどんどん被害が広がっていく。日本は会社もそうだけど、ルールがいっぱいある割には、現場の裁量や決定権が無い。避難できなくて数人被害にあっても、それで何十万人助かるならそれでいいとような判断が出来ないか?この映画自体はどっちがいいという結論は出してないけど、日本の組織のなかなか意思決定しない、根本の解決に着手しないもどかしさを描いている気がする。
ヘリコプターはゴジラを攻撃してないので、熱くなってついうっかり
α:ゴジラが総理たちをぶっ殺すじゃない。高齢社会で金や権力を持った老人ばかりだと世の中硬直しちゃうから、どこかでリセットしたいという監督の願望が出ている。とはいえ庵野秀明はエヴァンゲリオンで大成功した追われる側の監督、自分の立場を顧みないでこういった主張をしているのは好感をもてる。
立川広域防災基地
東京都立川市のモノレール基地
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』第三新東京市のモノレール基地
ゴジラに都心を壊滅させられて、政府機能は立川に移動します。私は立川のシネマシティで観てたんですけど、すぐ近くで映画が進行している、居ながらにしてここが聖地なのかと思うと、とても興奮しました。
矢口とカヨコが核兵器の使用について話すシーン、背景はモノレールの基地ですが『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009)でも似たようなシーンがありましたね。
ヤシオリ作戦
『日本誕生』ヤシオリノサケを飲むヤマタノオロチ
ヤシオリ作戦の名前は、日本神話のヤマタノオロチ退治に用いられたヤシオリノサケから取られています。血液凝固剤を運ぶポンプ車のコールサインはアメノハバキリで、これは首を切り落とした剣の名前。
日本神話を題材にした映画としては『日本誕生』(1959)。三船敏郎扮するスサノオノミコトと、円谷英二特撮監督によるヤマタノオロチの対決シーンがあります。ヤマタノオロチは八首龍なので、ゴジラというよりはキングギドラの原型ですね。
ヤマタノオロチについていえば、庵野秀明、樋口真嗣は過去に映画『八岐之大蛇の逆襲』(1984)を撮っています。(庵野秀明が出演・ミニチュア制作、樋口真嗣が特撮監督。)コメディ色の強い作品ですが、怪獣と軍隊による市街戦はリアルで、本作に通ずるところがあると思います。
無人在来線爆弾
『キングコング』高架の電車を引き倒す世界8番目の不思議
螺旋状に飛び上がる無人在来線爆弾
爆弾を詰め込んだ電車、新幹線をゴジラにぶつけて攻撃しますが、怪獣映画に電車は付き物です。古くは『キングコング』(1933)、ニューヨークを走る電車を掴んで暴れます。『ゴジラ』(1954)でも電車を、『ゴジラ』(1984)では新幹線を襲っています。無人在来線爆弾はゴジラの周りで螺旋状に飛び跳ねて爆発しますが、テレビドラマ版の『電車男』(2005)のオープニングアニメみたいだと思いました。これは元ネタがDAICON IVですね。
太陽を盗んだ男
『太陽を盗んだ男』山下警部、撃たれて蜂の巣になりながら見事な伸身宙返り
『仁義なき戦い』背景は原爆のキノコ雲
矢口が指揮を執るのは科学技術館の屋上、六芒星がかたどられた外壁が特徴的です。皇居の北、東京のほぼ中心にある科学振興施設で事態の行く末を見守るというのが象徴的です。
ここは沢田研二が原爆をDIYする映画『太陽を盗んだ男』(1979)で出てきます。プルトニウムを盗んで原爆を作った城戸(沢田研二)と山下警部(菅原文太)が戦うのですが、山下警部は拳銃でいくら撃たれても死なない!おそらく山下警部は原子力で動いているのではないか。菅原文太といえば『仁義なき戦い』(1973)ですが、あの映画は広島の原爆投下から始まり、その暴力性の連鎖としてヤクザ達の抗争が描かれました。それを踏まえ、山下警部は核兵器の化身でありながら人類に警鐘を鳴らす、ゴジラの様な役回りをしたのではないかと思っています。
ゴジラの尾〜スタッフロール
『日本誕生』世界のミフネ、アメノムラクモノツルギをゲット!
最後は人間の様なものに変わりつつあるゴジラの尾で終わります。ヤマタノオロチ退治では、尾を叩き斬ろうとしたら、中から三種の神器の一つであるアメノムラクモノツルギ(クサナギノツルギ)が出てきました。ゴジラの尾に何があるのか。人型でレーザーを出す神がかった武力となると、巨神兵ですかね。庵野監督の作品世界にリンクしていきそうで、楽しみでもあり、商売上手いなと思ったり。
α:恋愛要素が一切なくて良かったね。最後にキスシーンとか入れろって言われそうだけど、ないのがいい。
キャストの最後には野村萬斎。出てたかな?と思ったらゴジラのモーションキャプチャーでしたね。そう考えると、鎌倉から上がってきてノソノソ歩くゴジラは野村萬斎に見えてくる。蒲田のも演じたのかな。
α:演じたんじゃないの。巨大野村萬斎が這って迫ってきたら、自衛隊はもっと早く攻撃してたと思う。シンゴジラの続編は、ゴジラという体の巨大野村萬斎と、帰ってきたウルトラマンという体の巨大庵野秀明の対決を見てみたい!
感想
私は公開初日の夜、立川シネマシティの爆音上映で観ました。劇場内は40、50代の会社帰りのオタク達で満員、最高の環境でした。意外な展開にどよめき、静かな興奮が高まっていって、映画が終わった時には割れんばかりの拍手喝采。最初はいまさら日本でゴジラなんてと思ってましたが、良かったです。庵野監督の次回作はシン・ヱヴァンゲリヲン:||でしょうか。本作から取り入れられる部分もあるでしょうし、楽しみです。