映画が終わらない

映画館の暗がりが落ち着くΩと京アニ好きのαによる与太話

練りこまれた豊かな荒野『マッドマックス 怒りのデス・ロード』

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スリーマイル島原発事故の牛はかなりショッキング

冒頭から情報量がすごいです。

双頭のトカゲはスリーマイル島原発事故で生まれた双頭の牛を連想させ、放射能汚染が進んでいること、そしてそれをすかさず口に入れないと生きていけない、過酷な世界が舞台だということを観客に突きつけます。

 

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「俺はナイトライダ~!」と陽気に歌っていたかと思うと急に泣き出すのでビビる

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次々目玉が飛び出すのでアガる

いきなりの目玉飛び出しショット!嬉しかったですね。1の冒頭、ナイトライダーがクラッシュするシーンで、血走った目のアップになる。本作でも開始早々に出てきて、「間違いなくマッドマックスの新作を観てるんだ!」って気分になりました。

 

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O-NEGATIVE UNIVERSAL DONER(O型Rh-の万能給血者)という設定が後々効いてくる

捕まったマックスは背中に屈辱的な入墨を掘られますが、上下逆さまなんですね。輸血袋は足を吊るして使うから。

イモータン・ジョーの登場シーンも良くて、観客には皮膚のただれた老人であることを見せる。妻や側近たちだけが知り得る真実で、ウォーボーイズ達はムキムキの不死身の男だと信じている。途中でネタばらしすると、観客も拍子抜けすると思います。最初から見せることで、ジョーがカリスマ性を維持する為に苦労していることが分かる。

ウォーボーイズの掛け声は「Fucacima,Kamakrazy,Warboys!」これは日本語字幕にはなっていません。Fuckが福島原発事故が発生したためにFucacimaに変わってしまった。俺たちは原発事故くらいぶっ飛んでるという意味でしょう。Kamakrazyはカミカゼ+クレイジーの合成ですね。ウォーボーイズなんてイカれてる、日本は関係ないと笑っていられない。

ぶくぶくに太った女性から母乳を搾り取ってるのもショックなシーンなんですけど、これで家畜が絶えてしまったこと、ジョーが他人を家畜と考えていることが分かる。

 

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迷える民と

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支配者

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AKIRA』4巻。迷える民と支配者

水を与えるシーンは漫画『AKIRA』が元ネタかと思います。荒廃した世界で、超人的な男が宗教で支配する。4巻の冒頭とよく似ています。砦の周りに住み着いてるのはミヤコ神殿の周りの集落に似ている。映画ナタリーのインタビューで、ジョージ・ミラー監督は『AKIRA』からの影響について述べています。

「マッドマックス 怒りのデス・ロード」ジョージ・ミラー監督インタビュー (3/3) - 映画ナタリー 特集・インタビュー

 

往路

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この後ひたすら左に進む

フュリオサがガスタウンに向かいますが、東に向かうと言って左に進んでいくんですね。普通は北が上、東が右なのでちょっと変です。理由として思いつくのは二つ。一つは南半球にあるオーストラリアの映画なので、南が上で東は左とした。もう一つは映画の進行方向の話で、洋画だと右に進んでいくものが多いです。2001年宇宙の旅木星目指して右に進む。アラビアのロレンスも右、最近だとダンケルクも右。右が正、左が反とすると、フュリオサ達は間違った方向に進んでいることを示唆しているのかなと。最後は思い直して右に帰ります。

α:そういえば、アナと雪の女王で、家出したエルサが向かった雪の城があったのも左でしたね。最終的には城下町に戻ってくる話の方向感は似ています。

 

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ヤマアラシ族の愛車。オーストラリアにはヤマアラシは生息していなくて、ハリモグラがいるみたい。

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『キラーカーズ/パリを食べた車』もちろんこの後人が串刺しになる。

ヤマアラシのトゲトゲのワーゲンはオーストラリア映画『キラーカーズ/パリを食べた車』からの引用です。この映画観たんですけど、実に変な作品で。まずパリって言ってるんだからフランスの首都だと思うじゃないですか。でもオーストラリアのパリという田舎町が舞台です。(検索してパリ川ってのはあったけど町があるのかは分からなかった。)パリの人たちは通りがかった車を襲って生計を立ててまして、捕らわれた人は逃げようにも暴走族が立ちふさがって逃げられない。住民と暴走族はグルなのかと思いきや、対立していって暴走族が町を破壊する。トゲトゲの車は暴走族の愛車です。

 

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二人とも本来の顔を失った状態にある

マックスは過去のトラウマから精神を病んでおり、人間性を失っています。スリットから「枷をつけたケダモノ」と呼ばれますが、その通りです。フュリオサに名前を聞かれても答えませんが、信用していないこと以上に、関係を築くことが怖くてできないのだと思います。名前を呼ぶ誰かが死んでしまったら、次は完全に壊れてしまう。

対するフュリオサはイワオニ族に会う時に、顔に真っ黒なグリスを塗りなおします。イモータン・ジョー大隊長としての戦化粧ですが、彼女もまた本来の自分ではいられない状況にあります。タールは徐々に薄くなっていき、鉄馬の女たちに再会した時には完全に落ちて、本来の姿を取り戻します。

 

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スプレンディドを支える妻たち。不思議ちゃんのダグが見えないが、きっと頑張っているはず…

スプレンディドが身を乗り出すシーンで、いつも涙ぐんでしまいます。生き残るためにスプレンディドが盾になる。その選択に賭けて他の妻たちが必死に支える。彼女を失うことは自分が死ぬよりも辛いのに。

生き残るために大局的な選択ができるか、というのはマッドマックスに共通したテーマであると思います。1作目のラストで、暴走族の残党は自分の足を切り落とすことをためらって、爆死してしまいました。

 

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弾倉を外しても装填している1発は撃てる

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不安そうな顔がいい

狙撃のシーンが素晴らしいです。マックスがウォーリグを分捕ろうとしたとき、フュリオサが右耳あたりで発砲する。キーンという、銃声による耳鳴りが表現されます。武器将軍の狙撃シーンでは、自分を殺そうとしたフュリオサに銃を渡して、右肩を貸している。ここでも耳鳴りがしますので、対になるシーンです。命を預けるほど信頼関係が深まっていることが分かります。

 

復路

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棒高跳び部隊ポール・キャッツ

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『マッドマックス』ポール・キャッツの開祖

ガスタウンの部隊、ポール・キャッツは曲芸師のようでなんとも奇妙です。よくこんなこと思いつくなと思いましたが、1作目を見返すとすでにやっていたんですね。崖から棒高跳びの要領でタンカーに飛び乗るシーンがあります。さすがジョージ・ミラー監督!ブレない男です。

 

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マックスの血液型はO型Rh-なので、誰にでも輸血できる

最後の戦闘でフュリオサは気胸になり瀕死に。こんなに地味に死にかける映画を観たことがありません。さすがジョージ・ミラー監督!元医者なのでリアルです。

ここで初めて、マックスは自分の名前をフュリオサに伝えます。共闘する中で信頼関係が築かれたとともに、孤独なケダモノだったマックスの人間性が回復したことが分かります。また輸血によって、復活した英雄マックスの力がフュリオサに分け与えられます。マックスは砦を去りますが、これから襲い来る困難は英雄フュリオサが解決するでしょう。

 

映画ナタリーの監督インタビューでも言及されている、ジョーゼフ・キャンベル『千の顔をもつ英雄』を読むと、様々な部分が対応していて面白いです。

本作の主人公はマックスではなくフュリオサでしょう。日常的な住まいを出て、門を抜けて境界を越えていく。数々の試練を乗り越えて専制君主を打倒する。再び境界を越えて帰還し、元居た世界に恩恵をもたらす。

過去作ではもちろんマックスが英雄役でしたが、本作では精神を病んでいて、それに振り回されています。選択を迫られるところでは、自分の意志ではなく、死なせてしまった少女の亡霊に誘導される。精神状態を知らないフュリオサ達からみたら、不思議な力で手助けしたり、道を示す思いがけない人物といったところです。これは『千の顔をもつ英雄』における「自然を超越した力の助け」に対応すると思います。「自然を超越した力で助けてくれる人は男の姿をしていることが多い。民話では森に住む小さい人々や魔法使い、世捨て人、羊飼い、鍛冶屋などがいて、姿を現しては英雄が必要とする魔除けや助言を授ける。」マックスは世捨て人ですね。

 

感想

公開初日に観に行って、文字通り虜になりました。最高なあまり他のアクション映画を観ても退屈に思ってしまうことが半年ほど続きましたが、そんな事は初めてでした。シリーズ過去作の要素をちりばめつつ、性差別や過激派の自爆テロといった現代的な問題をえげつない形で取り込んで、真摯に向き合っている。倫理観はぶっ壊れて、危うく成立している世界観やシーンの作りこみ。今回の記事を書くのに見返しても発見があり、なんて上手いんだろうと驚きます。

続編の製作は決定していますが、難航しているようです。ジョージ・ミラー監督、御年73歳ですから、なんとか元気なうちに作り上げてほしいです。

 

α:Ωとは20年来の付き合いですが、彼がやや興奮しながらオススメする作品というのは4年に1度程度、非常に稀です。私は普段、京都アニメーションの作品ばかりを見ていますが、これは見ておかなければならない、と立川爆音上映へ2人で行きました。ブラック&クロームのモノクロバージョンでしたが、砂漠とケバい車体、濃淡のハイコントラストが印象的で、出血や砂煙などのエフェクトが車の陰影と合わさると正直何を見てるか全く分からないカットが多かったけれど、とにかくカッコいい画面の連続というのを強く覚えています。帰りの飲み屋、Ωのテンションが高かったので勢いで映画ブログを初めようと言いました。

車で荒野を爆走、フロンティアを超えてまだ見ぬ理想郷を目指すという話の筋は、非常に西洋的、キリスト教的だなと感じます。一方で、少子高齢化(ウォーボーイズの減少)、格差社会原発事故といった問題と共に2020年東京オリンピック開催によって、AKIRA的な世界観の到来を意識してしまう1人の日本人として「生き残るために大局的な選択」をするといったメッセージは、素直に共感できた作品です。

 

おまけ

αが『リズと青い鳥』の記事を書いていたので、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』との共通点をぼんやり考えていたけど、これくらいしか思いつかなかった。

 

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語り Ω / 編集 α

引用

・映画

* 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』監督:ジョージ・ミラー 2015
* 『マッドマックス』監督:ジョージ・ミラー 1979

* 『キラーカーズ/パリを食べた車』監督:ピーター・ウィアー 1974

・書籍
* 『AKIRA大友克洋 講談社 1982-1990
* 『千の顔をもつ英雄(新訳版)ジョーゼフ・キャンベル著、倉田真木・斎藤静代・関根光宏訳 早川書房 2015

「リズと青い鳥」山田尚子監督の鳥カゴから脱出せよ!

解読「『リズと青い鳥』メイキングVol.4 山田尚子監督インタビュー編」

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先週公開された、映画「リズと青い鳥」の販促映像「『リズと青い鳥』メイキングVol.4 山田尚子監督インタビュー編」皆さんはご覧になられただろうか?山田尚子監督が作品を紹介している大変貴重な映像となっている。

京アニファンもしくは監督ファンとっては簡単には見過ごすことができない映像だ。一見して監督の美しさに心惹かれるが、この動画には作品に関する重大なヒントが隠されているはず・・・。僭越ながら、いち京アニファンとして、こちらの映像の演出に隠れたメッセージを紐解きつつ、「リズと青い鳥」に対してどのような視点を持って取り掛かっているかの一例をお伝えできればと思う。

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まずは監督本人に視点を移してみよう。レンズの中心からやや右側にズレて座っており、体を傾けたり、時々目線を下や横に動かしている「演技」が見て取れる。例えば一般的なインタビュー形式の番組であれば、左側にインタビュアー、右側に監督という配置、もしくは中央にドンと構えて座ってレンズ越しの視聴者に対して正面からメッセージを伝えるのが一般的だろう。一生懸命に作品の魅力を伝えくれている監督が中央から少しズレた位置に座る事で、視聴者は「レイアウトの不安定さ」を感じる。ストレートに言葉通りではなく、監督が発する意味を深読みする必要がありそうだ。

整えられた髪型に注目しよう。前髪は大きく左右に分けて1束真ん中の「希美」型、横と後ろ髪は「みぞれ」型。まるで2人の主人公を体現したかのような髪型のようだ。キャラクターに気持ちを寄せて、作品作りを行ったという事であろうか?

「アクセサリー」に注目すると、まずはネックレス。よくよく見るとMagicという文字を象っている。本作は現実的な女子高生のドラマであり、魔法は出てこない。あえて言えば監督は作品に魔法を掛ける存在といった意味が見いだせる。そしてネックレスは「首輪」から発祥したもので、仮にプレゼントとして受け取った場合は「あなたを繋ぎ止めておきたい」という意味があるようだ。作中の人間関係についてポイントとなりそうなキーワードだ。

次に左耳のイヤリング。イヤリングを片耳だけする事は何ら普通の事である・・・とスルーせずに意味を調べてみよう。女性が左側にイヤリングをしている場合は「レズビアンのアピール」という意味がでてきた。重要なヒントであろう。この作品は2人の主役の少女にそういった関係性があるという事を暗に表現しているのだろうか?

実はこのイヤリングはダブルミーニングとなっている。「リズと青い鳥」にはイヤリングをしたキャラクターが出てこない。そこに取ってつけたような監督のイヤリング。この不整合に対して、ファンなら直感的に「耳」といって連想される作品「聲の形」を思い浮かべるだろう。劇中でも主人公の西宮硝子が左耳にだけ補聴器を付けてるカットもあった。そう、これは「聲の形」ファンへのメッセージではないだろうか?あの夏の大ヒットがあった事で、引き続き監督という大役を任されたよ、「ありがとう?」という・・・。

監督は花柄のワンピースを着ている。京アニファンにはお馴染み、花と言えば「花言葉」だ。残念ながら解像度の問題でハッキリ読み取る事ができないが、オーニソガラム(純粋)、ダリア(移り気・不安定)、コリウス(恋の"のぞみ")あたりの組み合わせではないだろうか。やはり作品を理解する上で役立ちそうなキーワードになっている。 また山田尚子監督作品に特徴的な「足」1があえて映されていない点も監督ファンとしては気になる所である。

まだまだヒントは残されていた。左奥に配置された「リズと青い鳥」のポスターである。分かりやすく半分隠れているではないか。宣伝という目的を鑑みると、適切に情報を伝えるためには全体をレンズに映し出す事の方が適切だ。だが半分隠れてしまっている。「背景」でキャラクターの心情を語る京アニだ、意味が無いハズがない。2

f:id:CobaltBombAO:20180509015037j:plain 希美がみぞれを見ているのは意味ありげ

このポスターを見たことがある方はご存知、隠れている方にはメインキャラクターの1人である「希美」が描かれている。もしかしたら「希美」は隠したくなるほどのネタバレ、ポーズや行動を取ってしまっていて、撮影の時にとっさの判断で隠してしまったのかもしれない。実写映像では撮影時のハプニングを偶然取り込むといった事はままあるそうだ。逆にアニメーション作品は、キャラクターや背景、全ての情報を人間が創り出しているという事が言えるだろう。

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もう一つタイトルの「リズと青い鳥」から「リズと」が消えてしまっていて「青い鳥」という文字列が強調されている。インタビュー映像の冒頭は「鳥が飛び立っている」抽象的なシーンだ。わざわざトップに持ってくる映像に意味が無いわけない。そして「冒頭のシーンで映画全体を説明する」という手法は過去の京アニ作品でも散見されているのだ。

1分ほどのほとんど動きの無いインタビュー映像にこれほどの情報が詰め込まれているという事実に驚愕する。本編90分、演出を1つずつ解読していくと、どれだけ楽しめるだろうか?果たして一つ残らず監督の意図を汲み取って楽しむ事ができるのだろうか・・・?情報の海に、まだ何か秘密が隠されているのではないかとワクワクすると同時に底知れない不安の波が襲ってくる。

リズと青い鳥』リアル脱出ゲーム論

改めて「青い鳥」について考えているとココで1つ灯台下暗し、驚愕の事実を思い出した。TwitterというSNSで日々呟いている我々が実は「青い鳥」ではないか・・・と。監督は以前のインタビューで「傍観者になって2人を撮影した」といった発言をしていた。本作はほぼ学校の中で話が展開する。学校が「鳥かご」であり、生徒たちが「青い鳥」。その様子を「劇場」で傍観する我々も「鳥かご」の中にいると見立てることが出来る。

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これまでのヒントを元に「リズと青い鳥」に隠されたメッセージを自分なりにまとめてみる。劇場という「鳥かご」の中で我々は90分間閉じ込められる。そこでは監督の発言通り、希美とみぞれ2人の「秘密」や「不思議」を観察し、解読する。本当の答えに辿り付いた!と意気揚々と劇場を後に「ツイート」をしてみる。ハッシュタグ「#リズと青い鳥」 のつぶやきを覗き込めば、はるかに深淵な分析を見せつけられ、自分の甘さに怯える。羽根がむしり取られていくような体験をする。飛び立てる事ができるまで視聴を繰り返す事になるが、まるでエンドレスエイト、リアル脱出ゲームを体験しているかのようだ。この映画は山田尚子監督からの挑戦状なのだ。はたして観客は自分なりのゴールにたどり着き無事に「鳥かご」から飛び立つ事ができるのか?

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まとめ

本作をはじめ、京都アニメーションと特に山田尚子監督の映像に対しては、1度見てストーリーを見知った後、このように演出をつぶさに観察し、隠された意味やメッセージを深読みして真の理解へ到達を目指そうとする私の事例をご紹介した。自分のレベルでは残念ながらこれくらいの情報しか読み取る事ができていないが、真の回答を得るにはまだまだ先は長そうだ。インタビュー映像に残された Next Yamada’s Hint は「大ヒット上映中」。興味を持たれた方は、上映期間中に何度でも監督の挑戦を受けてみて欲しい。

www.youtube.com

感想

Ω : とても良い映画でした。私は『響け!ユーフォニアム』本編を観ていませんが、本作は一本の映画として完結しているので支障なかったです。言葉とは裏腹な心情を、わずかな仕草、背景、構図で物語る。ストーリーは監督の過去作より淡白になり、細かい演出をひたすら積み重ねていく純度の高いヤバい作品。引用で成り立つ映画が多い中で(それはそれで楽しいのですが)、単品でここまでできるのかと感銘を受けました。

妄想:α / 編集・感想:Ω


  1. ファンが使用している通称「山田レッグTwitterなどで時々使われているのが確認できる。

  2. Ω:メイキング1だと監督がいてポスターも全部映っているから、4は監督のメッセージを伝えるためズームでいくという判断では…

映画「聲の形」から読み解く!山田尚子監督の演出意図

f:id:CobaltBombAO:20180402195950j:plain 将也と硝子がはじめて触れ合うカット

山田尚子監督作品をはじめ京都アニメーションの作品は何気ないカットの積み重ねにより、キャラクターの気持ちや行動原理を説明している事が多いです。楽(らく)しようとすれば、説明セリフや文字で説明してしまいそうですが、動画というメディアの特性を活かした演技・背景・カメラワーク等によるきめ細かい情報の制御がなされています。そしてファンは、そこからどれだけの情報を受け取れるのかを楽しんでいるようです。今回は映画「聲の形」のいくつかの例を通して、カットの積み重ねによる京アニの演出意図がどのように明示されているかという視点で書いてみようと思います。

「シューティング」に隠されたコミュニケーション不全な将也

f:id:CobaltBombAO:20180402191801j:plain シューティングゲームをプレーする将也

f:id:CobaltBombAO:20180402191934j:plain 輪ゴムで的当てをする将也

f:id:CobaltBombAO:20180402192009j:plain 硝子の事をシューティングゲームのボスが来た!ように感じている将也

子供時代の将也はとにかくシューティング(物を投げる事)が好きなようです。確かに男の子は鉄砲とか好きですが・・・・

f:id:CobaltBombAO:20180402192125j:plain 硝子に向かって小石を投げる将也

f:id:CobaltBombAO:20180402192203j:plain 硝子に迫られ、焦って砂をかける将也

硝子相手にもまるでゲームのようにシューティングを繰り返しています。『一方的に遠隔から攻撃』をしている事から、コミュニケーションの手段として考えると『対話をする気がない』ようにも見えます。とはいえ耳に障害がある硝子にとっては音声よりも物理攻撃の方がコミュニケーション手段として効果的なのかもしれません。実際に、小石を当てられた硝子は、怒るではなく友達になろうと将也を誘います。

f:id:CobaltBombAO:20180402192250j:plain チョークを投げる

f:id:CobaltBombAO:20180402192434j:plain 補聴器を投げる

f:id:CobaltBombAO:20180402192348j:plain ホースで水をかける

その後もひたすら遠隔攻撃を続けていますね。将也にとって硝子は遊び道具(タコのボス)みたいな人なので、イジメようと思ってこのような行為を繰り返していたわけでは無いのでしょう。

f:id:CobaltBombAO:20180402192544j:plain 手話が気になっている将也

自分の得意なシューティングを通してしか、コミュニケーションしようとしなかった将也ですが、手話に対して少し特別な反応をするカットがでてきます。周りの子は特に手を動かしてない事から、将也は興味があるのでしょう。これが後々手話を覚える伏線として機能していますね。

f:id:CobaltBombAO:20180402192755j:plain 硝子に対して「友達になろう」と手話をする将也

自殺を辞めてからノートを返しにいく展開は、少し唐突な印象も受けましたが、自分がイジメられる原因となったノートや硝子の事を清算したかったのかもしれません。手話を覚えていた事からも、小学校を卒業した後も彼女の事が心残りだったのではないかと推測できます。そして、ようやく硝子とコミュニケーションを取ることができるようになりました。「俺は物を投げるのが好きだ!」とか「手話を勉強して彼女と話したい!」みたいな野暮なセリフが一切出てこないのが京アニらしいですね。

2度の自殺の引き金になった「自責の念」の闇 西宮硝子

f:id:CobaltBombAO:20180402193328j:plain 転入生 西宮硝子による所信表明

小学校時代の硝子の行動原理は、とにかく『ノートを通じて仲良くなりたい』です。

f:id:CobaltBombAO:20180402193443j:plain 植野さんが友達と楽しくやっている様子を羨ましそうに見ている硝子

f:id:CobaltBombAO:20180402193520j:plain イジられていたのに「ありがとう」と返してしまう硝子

f:id:CobaltBombAO:20180402193600j:plain 将也がケガの原因なのに「ごめんなさい」してしまう硝子

何をされても「ありがとう」「ごめんなさい」と無難な言葉で返してしまっています。小学生くらいなら謝っておどけたり、逆に怒って喧嘩したりというコミュニケーションが上手くできれば良かったのかもしれませんが、硝子は抱えている青いシクラメン花言葉のようです。後々の話しで分かることですが、彼女は周りの人が不幸になると、自分を責める傾向があります。友だちになりたいという強い気持ちと共に、(これは想像ですが過去にイジメられた経験から)「自責の念」があります。そのため自分にケガを負わせた事で先生に叱られた将也に対しても「ごめんなさい」なのでしょう。

f:id:CobaltBombAO:20180402193941j:plain よくみると硝子がノートを沈めているカット

さらに友達になろうという事を頑張って伝えようとしましたが、将也にノートを投げ捨てられてしまいました。硝子が水に入り、ノートを拾い上げると思いきやノートを沈めています。つまり、ここでノートを通じて友達をつくるという当初の目的を諦める選択をします。

f:id:CobaltBombAO:20180402194028j:plain 後ほど結弦の夢の中で出て来るシーン

ノートで友達をつくることに失敗した硝子は、結弦に自殺したい事を伝えています。この時は(きっと家族の説得があり)自殺をしなくて済みましたが、追々学校を転校することになります。

f:id:CobaltBombAO:20180402194118j:plain 「これでも頑張っている!」と硝子

『友達を作る』と本人なりに頑張ってはいるが、やり方が不器用だったり、周りの不理解によって仲間になれませんでした。

驚いたのは硝子がノートを沈めた後に、イジメのスケープゴートになりいたずら書きをされていた将也の机を拭いてあげています。ここはやはり『自分のせいで将也がイジメられてしまった』という「自責の念」が生まれ、それを少しでも晴らす為の行動だったのではないでしょうか?この傾向は、高校時代においても自殺の引き金となってしまいますね。しかし、作品中には彼女がどうして「自責の念」を持つようになったかまでは描かれてないようです。

「恋をしたのは、いつからか?」aikoの主題歌について

f:id:CobaltBombAO:20180402194238j:plain 髪型を変えて一世一代の告白をする硝子

硝子の告白シーンは少し唐突なようにも思いました。監督のインタビューでもこれは将也の物語であることが強調されていました。きっと硝子のことを描く部分はいくらか省略しているのでしょう。

f:id:CobaltBombAO:20180402194517j:plain 小学校の水に沈めたノートを受け取った硝子

この告白に至った動機を想像してみます。まず自分が諦めてしまった「友達をつくるノート」を将也が持ってきてくれた。更に手話で「友達になれるかな?」と返して貰えた事で、小学校の時の悲願であった「ノートを通じて友達をつくる」という目的を唐突に達成する事ができました。またこの後、目の前で川に落としたノートを再度拾い上げてもらうことで、彼女にとっての小学校時代の辛い思いでは一旦清算され、再始動した1ように思います。

現実にこんな事があれば、友達以上感情を持っているという想像は難しくないです。実際に眼がウルウルする演出も入っていましたね。

その後、突然将也の自転車に植野が乗って現れた事がありました。あわや恋のライバル登場に焦りがあったのかもしれません。また難聴が進行した事でもっと人生を大切に生きようなどと思ったなど想像できます。しかし、いずれも告白するトリガーになるような決定的な演出は入ってないようで結論を出すのは難しいなと思っています。

f:id:CobaltBombAO:20180402194756j:plain aiko 恋をしたのは

ここで話しはズレますが主題歌の「恋をしたのは」について。はじめて映画館でこの主題歌を聴いた際に、実は内心ズッコケてしましました。というのも映画の主題は明らかに「恋」ではなく「コミュニケーション」の問題を描いており、2人で支え合って問題から脱出し生きていく、恋か愛かと問われればどちらかというと「愛」を描いているのに、何故「恋」について歌っているんだ?と全く理解できませんでした。

きっと製作委員会の音楽プロデューサーあたりが主題歌に対する決定権を持っており、興行的な成功を狙い恋愛映画のような見立ててで宣伝するためにaikoさんを抜粋したのだろうと邪推をしたりもしました・・・。

当初はこのように感じていたのですが、何度か視聴を繰り返す内に、上記の硝子が恋をした事があまり描かれていないな・・・「恋をしたのは、いつからか?」と思うようになりました(笑)ご存知のようにこれはaikoさんの歌詞と同じです。

きっとaikoさんも映画のプロットを見た時に同様の疑問にぶち当たり、恋愛ソングの女王としては、硝子の気持ちを補完せずには居られなかったのでしょう。この観点で歌詞を読めば、エンディングも演出の1つとして理解できそうです。実際に山田監督に質問する機会があれば、aikoさんにどういう発注をしたのかは聞いてみたいですね。

小ネタ集

暇になったら「シャーペンノック」する将也

f:id:CobaltBombAO:20180402194959j:plain 暇で退屈している将也。教室でシャーペンの芯をノック

f:id:CobaltBombAO:20180402195016j:plain 硝子が転校した後、さいどシャーペンノックを再開

硝子が現れてからは、この癖は出てこなくなるのですが、転校した後に再びノックをはじめます。やはり硝子のことは暇つぶしという認識だったのでしょうか・・・?

はじめに「床屋に硝子が座っている」カットの謎

f:id:CobaltBombAO:20180402195122j:plain ボサボサの髪の上に葉っぱが一枚

このシーンは時系列のどこに位置するか少し謎があります。 硝子のお母さんが髪切ってもらっている後ろでイジメられた形跡のある硝子が座っています。転校する前? 転校後?どちらでしょう。転校前だとしたら以前の学校に通っていたときにもイジメられていたという事になりそうです。転校後であれば将也達と何かしらコミュニケーションがありそうなものです。やはり転校前なのでしょうか。

スポンサーの「みずほ銀行」以外の銀行が出てくる謎

f:id:CobaltBombAO:20180402195233j:plain 冒頭にでてくる『水門銀行』

f:id:CobaltBombAO:20180402195244j:plain みずほ銀行」で示談金を卸す将也の母

f:id:CobaltBombAO:20180402195257j:plain 植野がチラシを配っている後ろにある『みずほ銀行

劇中に映画スポンサーである『みずほ銀行』がでてくるのですが、なぜか冒頭は『水門銀行』となっています。冒頭からいきなりスポンサーが出てくると観客が現実に意識が戻されてしまう、もしくは、自殺するために精算するお金を引き出すというネガティブなシーンは避けたいという事なのでしょうか?一般的に未成年の子供は親と同じ銀行で口座を持つと思いますので、あえて変えているのでしょう。

(おまけ)絵コンテを読んだけど その2

f:id:CobaltBombAO:20180402195412j:plain 絵コンテでは「いっしょにゴミ捨ていきませんか?」といった内容でした。

「私たちは今 2017」にて聲の形の絵コンテを見ていて、1つ発見がありました。上記のシーンのノートに書いてある言葉が絵コンテの時点では「いっしょにゴミ捨ていきませんか?」というようなセリフになっていたのです。

製作のどの時点で変更が有ったのかは分かりませんが、絵コンテから変更されています。単に山田監督が1人で考えた絵コンテをトップダウンでアニメにしているのではなく、スタッフとの打ち合わせや製作の中でインタラクティブに変更が加わったんだろうと想像できます。

「ゴミ捨て〜」だと植野達が掃除をサボっていたのを咎める硝子のマジメさをクローズアップする形になりますが、変更後の「何を話していたか教えて?」だと友達の輪に入りたいという硝子の気持ちがより際立つようになっています。ストーリーに沿った良い変更だな思いました。

まとめ

山田尚子監督作品に限らず京都アニメーションの作品はカットの積み重ねでその後ろ側に流れているキャラクターの感情や行動原理が説明されています。この記事を通して京アニファン以外の方にはアニメ視聴に新しい観点を提案できれば幸いです。もし新しい発見があったら教えてください。

他にも各キャラクターの感情の動きや劇伴についても書いて見たい所ですが、ここで打ち止めとしたいと思います。個人的に公開後からこれまで記事を書こうかどうしようかと悶々としていました。今回と前回の記事を通して「聲の形」に対しては禊が済んだような気持ちで、山田尚子監督の最新作「リズと青い鳥」に向き合えそうです。楽しみですね。

そして次の映画がはじまるのです。

語り・編集 α

引用

おすすめ

前回の記事では、京都アニメーションの演出として普遍的な要素をデザインパターンとして抜き出してみました。 cobaltbombao.hatenablog.jp

今回の記事で触れていない「聲の形」の全体の内容については、富崎学さんという方の考察がまとめられたTogetherをご覧ください。これを読めば大筋として映画「聲の形」を理解・納得できると思います。コレを読んだ当初は何も書くことが無いなと焦りました(笑) togetter.com


  1. 「自責の念」以外は

映画「聲の形」から読み解く!京都アニメーションのデザインパターン

f:id:CobaltBombAO:20180401211655j:plain 春から秋へ、時間の経過を表現する秋の花「コスモス」

山田尚子監督作品をはじめ京都アニメーションの作品は、セリフには出てこない「象徴的な映像」により、ストーリーやキャラクターの心情の説明が多くなされています。分かりやすく例をあげると、雨が降ってる時はキャラクターの心情も暗くなり、晴れたら元気になるといった演出です。こういった演出は、監督の心象風景を描写したような表現ではないため、ある程度論理的に検討すればその意味が分かり、物語を補強している事が多いように感じます。

僭越ながら、こういった京アニ作品を試聴する中で見つけた象徴的な映像の演出パターンを「京アニデザインパターン」と勝手に呼称し、聲の形を題材にその演出パターンがどのように出てくるのか読み解いてみました。いくつかのパターンに関しては過去作も言及しています。この施策を通して、自分の映像に対する読解力を上げること、そして知見を共有することで、京アニに興味を持ってくれる方が増えることを目標とします。1

京アニデザインパターンを知ることで、過去・現在・過去あらゆる京都アニメーション作品を100倍楽しめるようになるかも?

最初のカットで物語りの全容を示すパターン

f:id:CobaltBombAO:20180401213236j:plain 冒頭、暗いトンネルのような穴の中を光に向かって1人で歩いてカット

これは次のカットと比較すると将也だろうと推測できます。

f:id:CobaltBombAO:20180401213320j:plain a point of the light という文字が出た後に、硝子が加わって2人になって歩いているカット

これは『虐められていた・自分の事が嫌いになった2人が寄り添って、1点の収束した、光の出口に向かっていく』という、これから起こる聲の形のストーリーを要約したカットとなっています。暗い画面なので何となくぼーっと見てしまうカットですが、最初から油断できません。

流石に初見で見て気付くかと言うと?(はてな)ですが、後から検討したり、複数回に試聴で発見できるような仕込みだと感じます。また話しの中盤に養老天命反転地の「極限で似るものの家」という施設がでてきますが、このカットは「極限で似ている2人」を表現しているようなレイアウトという見方もできます。

f:id:CobaltBombAO:20180401214011j:plain f:id:CobaltBombAO:20180401214602j:plain 2人が出口に近づき光が画面いっぱいに広がるカット

ちなみに映画の最後に、続きのカットが出てきます。中央の光が画面いっぱいに広がって、ホワイトアウトして青空が広がる。自殺したいとまで思いこんでいた2人が、一緒になって暗いトンネルからようやく抜けられた事を表現した美しい青空です。

参考例 ヴァイオレット・エヴァーガーデン第一話「愛してる」と自動手記人形

物語の全容を最初に凝縮するというパターンは、放映中のヴァイオレット・エヴァーガーデンの第一話でも見られました。

ヴァイオレットが少佐に向けて書いた手紙が風に乗って街や人の間を駆けめぐり2、その手紙の行方は結局分からなくなってしまうが、沢山の紙が舞う中で船が出向する(見知らぬ世界へ度立つような)希望や賑わいのあるカットに繋がる。ヴァイオレットが手紙というメディアを書く事を通して、人や街と交流し、少佐と自分という狭い関係から、外の世界に興味が広がっていくぞといったイメージを与えられました。

背景で物語るパターン

f:id:CobaltBombAO:20180401214947j:plain 小学校の教室での掲示 右上の青い画用紙には「みんなで立ち向かう」の標語が・・・

f:id:CobaltBombAO:20180401215137j:plain 音楽室の掲示 「表現を高めよう」「ハーモニーを大切に」

学習指導要領なのか学校の方針なのかは分かりませんが、形骸化した標語が書いてあるポスターが貼ってあります。イジメの発生を許してしまったクラスのみんなにとっては耳が痛いですね。

背景がアニメーションのストーリーやキャラクターの感情をサポートするというのは、とてもアニメらしい演出だなと思います。現実世界では悲しい日に晴れていたり、誕生日に台風がくることもありますしね。

f:id:CobaltBombAO:20180401215458j:plain 飛行機がポツンと"浮いている”恐ろしいカット

高校のお昼休み、空に何か飛んでいるのをクラスの皆がワイワイ見ているなか、机に突っ伏して孤立する将也くん。かなり痛々しいカットの後、雲一つない青空の中”浮いてる飛行船“がでてきました。まさに学校のクラスで"浮いてる"将也くんを表現している飛行船。この飛行船自体は特に伏線という事も無く、これ以降出現していないので、将也の事の浮きっぷりを表現する言葉遊びとして出しているような気がします。容赦無いないですね。

f:id:CobaltBombAO:20180401215856j:plain 結弦の心と連動した天気

公演で拾われた結弦、お姉ちゃんをイジメていた将也の家で手厚くもてなされ、どこかやりきれない気持ちを雨が代弁しています。3

f:id:CobaltBombAO:20180401220243j:plain そんな結弦に傘をさす将也

傘を挿して貰ったり、靴を貰ったり、正面からコミュニケーションをして、将也が変わろうとしている事に気が付き、徐々に許せるようになる。

f:id:CobaltBombAO:20180401220410j:plain 雨が止んだ事を表現する波紋の無い水たまり

気持ちも晴れると雨も止む。この後のカットでお母さんが濡れているのも、雨の中探し回った事を想起させて良いですよね。背景でストーリーを補強するのはアニメであれば散見されるパターンだと思います。雨といえば、響けユーフォニアム「泣き虫サクソフォン」などもありました。

川で物語るパターン

f:id:CobaltBombAO:20180401221749j:plain 川の中に居る1匹だけ違う色をした鯉4

背景に分類されそうですが、非常に大事な要素なので別枠にしたいと思います。 川は三途の川など生死の表現が分かりやすい例ですが

f:id:CobaltBombAO:20180401222452j:plain 『007 スカイフォール』より。生きてはいたもの後遺症で身体能力が失われ、スパイとしては死んでしまう。

Ω:水面に落ちることは死、生まれ変わりを意味することが多いです。最近の映画だと『007 スカイフォール』。冒頭、ジェームズ・ボンドは作戦に失敗して川に落下する。川底はドクロになっており、一度死んでしまったという意味が明らかです。川ということで言えば、時間が止まる事なく流れ続ける、Point of no return という意味でもよく使われていますね。

冒頭のカットで将也が川に飛び込もうとしますが、これは物理的に川で死のうとしたので分かりやすく三途の川の解釈に近いですね。

f:id:CobaltBombAO:20180401222624j:plain 硝子による告白のカット

硝子が告白のカットも川に掛る橋の上でした。やはり告白すると普通は今までの関係には戻れなくなってしまうものです。Point of no returnの解釈でしょう。ただ将也くんの鈍感力のお陰(?)で2人の関係は余り代わりませんでした。イジメられて耳を塞ぎ込み、周りの情報をシャットダウンしていた状態で感じ取る事は難しかったのかもしれません。

f:id:CobaltBombAO:20180401222805j:plain 硝子を助けた将也がマンションから落ちた後のカット

マンションの上から飛び込み自殺を図った硝子を助けた将也、助けの最中小学校時代の行いを反省していましたが、どうにも落ちてしまいました。ここで川の中に落ちたという表現がされています。このカットの川は、実際にマンションの横に川が流れている訳ではないため、観念的なイメージのようです。

この直前のカットで卵の黄身が落ちて割れない事と、将也のポーズもお母さんのお腹の中の胎児のようなポーズという事で、ここでの川はお母さんのお腹の中で生まれる(生まれ変わる)事を表現しているように思います。この次のカットでおへその辺りから血がでているのもヘソの尾が切れたという見立てもできますね。

実際にこの後の将也は人が変わったように、硝子に頼ることが出来るようになります。

参考例 たまこラブストーリー

f:id:CobaltBombAO:20180401223001j:plain 将来の事を話すたまこ達

さて、他の作品も見てみると、例えば たまこラブストーリーでは、たまことその友人たちが将来の事を話し合うカットで出てきましたね。将来どんな職業につくのか?大学進学はどこに?など不可抗力に将来の話しをするには打ってつけの背景でした。

f:id:CobaltBombAO:20180401223518j:plain もちぞう愛の告白のカット

もちろん告白のカットも聲の形同様、川というシチュエーションが選ばれていました。たまこラブストーリーたまこまーけっとについては別途記事を書きたいですね。他にも色々と川のカットが出て来ますが、お話に即した観点で読み解く楽しみがあります。

花言葉で物語るパターン

花言葉の意味がカットやキャラクターの心情を表している事があります聲の形にでてきた花を幾つかピックアップしてみます。

青いシクラメン × 西宮硝子

f:id:CobaltBombAO:20180401224104j:plain 硝子が持っている青いシクラメン

別のカットでは硝子抱えていたりしますが花言葉は、「はにかみ・内気」。耳が聴こえない事を抜きにしても内向的な性格という事を表現しているのかもしれません。

秋明菊 × 島田一旗

f:id:CobaltBombAO:20180401224322j:plain 将也が島田にイジメられはじめたカットに添えられている菊の花

島田達に裏切られイジメられはじめたカットでは、キク科の花が咲いています。花びらの形から、これは秋明菊シュウメイギク)ではないでしょうか。花言葉は「忍耐・淡い思い・薄れゆく愛」という意味を含むようです。将也にとっては辛い時期を迎える事になりそうです。

青い薔薇 × 石田 美也子(将也の母)

f:id:CobaltBombAO:20180401224842j:plain 将也の自宅のリビングには青い薔薇のリース

造花だと思いますが、青い薔薇のリースが飾ってあります。青い薔薇の花言葉は、「夢叶う・奇跡・神の祝福・喝采」といった所で、部屋全体も青い色調で、どこか神秘的な空間になっているように感じます。未成年にとって母は自分を庇護してくれる神のような存在といった所でしょうか。

他の作品では例もあげるほどでもなく花が良く出てくるので調べてみると面白いです。特にヴァイオレット・エヴァーガーデンでは各キャラクターに花の名前が付いているので、性格やストーリーを補強する重要な”言葉”になっていると思います。

レイアウトで物語るパターン

f:id:CobaltBombAO:20180401225128j:plain 機動戦士ガンダムでお馴染みの富野由悠季監督著「映像の原則」

富野由悠季監督の「映像の原則」を読んで知ったのですが、映像の向きには意味があるようです。詳しくは本を読んで頂ければと思いますが、超ざっくり説明すると、左向きはマイナス・右向きはプラスの意味を持つようです。これは絵コンテ担当者や話しの都合によっては厳密では無かったりする傾向がありますが、山田尚子監督は割りときっちり守ってつくっているように感じます。そういう観点で面白かったカットを幾つかピックアップしてみます。

Ω:実写映画でも映画全体の進行方向が決まっている場合があり、意識してみると面白いです。例えば『2001年宇宙の旅』は木星目指して右に進んでいく映画でした。欧米の映画では右がプラスである場合が多い気がします。演劇上のルールなのか、それとも文章を左から右に書くからなのか、理由ははっきり分からないですが。

f:id:CobaltBombAO:20180401225651j:plain 皆で左下に落ちるジェットコースター

仲良くなれたと思ってみんなで乗ったジェットコースターは左下へ急降下。不穏な展開が予想されます。実際にこの後に些細な事からみんなの関係性がこじれてしまいます。

f:id:CobaltBombAO:20180401225839j:plain 北枕で寝ているおばあちゃん

おばあちゃんは北枕のまま起き上がる事ができずに、亡くなってしまいました。

f:id:CobaltBombAO:20180401230001j:plain 横になっていた事で北枕を回避した結弦

対して結弦は、おばあちゃんと同じ北枕で寝ていたようですが、右向きに起きる事ができたので一命をとりとめましたが・・・

f:id:CobaltBombAO:20180401230109j:plain 硝子が自殺をしてしまった悪夢・・・・

ただ北枕の弊害はあったようです。過去に自殺したがっていたお姉ちゃんや撮影した動物の死骸などの良くない夢を見てしまったようです。

この北枕の配置はかなり意識的にやっているようです。CLANNAD After Store(個人的には伝説の)山田尚子回「白い闇」では、渚が死ぬ直前まで頭が右側に配置されていましたが、2人の思い出が走馬灯のようにフラッシュバックしてから次のカットには枕が左側にレイアウトされて死んでしまった事が表現されていました。泣けますね。

また、ヴァイオレット・エヴァーガーデンでもヴァイオレットが少佐の悪夢を見た時にも、頭が左側横向きの配置になっていました。きっと映像業界のお作法としてこういったデザインパターンがあるのでしょう。

f:id:CobaltBombAO:20180401230241j:plain 死の直前に食卓を挟んで対比される2人

ついでに上記の寝る直前のカットでは、結弦が撮影している死体の写真が左側の暗がりに配置されており、明るい部屋との対比で生死を表現しています。生死のラインに対して、結弦は背を向けられていますが、おばあちゃんが死の方向へ向いている、恐ろしい事をしやがる・・・。

f:id:CobaltBombAO:20180401230352j:plain 将也が死の淵から起き上がる際にも北枕からスタート

将也が死の淵から起き上がる際にも北枕からスタートします。マンションからの飛び降りで、一度リセットして生き方を改めて再スタートするというような表現ですね。一説には北枕から起き上がったら幽霊とか亡霊になるという意味もあるようですが、今回は頭がちょうどカーテンで隠れるような北枕にしてあり、これに当てはまらないようにしているのでしょう。

足で物語るパターン

f:id:CobaltBombAO:20180401230640j:plain 植野のぶっきらぼうに足を投げ出して、ちょっと色気も感じるカット。植野が将也を誘いますが、スルーされてがっかりな足の演技が見ものです。

山田尚子といえば足というのは、ファン共通の理解だと思います。通称「山田レッグ」聲の形でもやってくれました!

f:id:CobaltBombAO:20180401230812j:plain 将也に告白をした後の硝子の足

寝そべり足パタパタパターンは新鮮でしたね。あー告白しちゃった!というような少し後悔と恥ずかしさが入り交じるようなパタパタ。

f:id:CobaltBombAO:20180401230822j:plain 遊園地に誘われて嬉しい硝子の足

さきほどとは変わって。喜びを噛みしめるようなゆっくりパタパタ。同じ構図でも足の動きだけで対象的な感情表現ができる事に驚かされました。SNS上では「山田レッグ」以外にも「山田パー」「山田マスク」という手を使ったパターンについても言及がありますが、聲の形では手話を丁寧に扱う関係で封印されているように思います。

服で物語るパターン

f:id:CobaltBombAO:20180401231741j:plain 雨の中、結弦を探し回ったお母さんの服

山田尚子といえば「けいおん!」で特徴的なTシャツを出していましたが、今回Tシャツで一番遊ばれているのは植野さんだと思います。高校時代にはデザイン関係を学ぶほど、お洒落には関心度の高い植野さんという設定のようですが・・・。

f:id:CobaltBombAO:20180401231042j:plain ハイビスカスの花言葉は美。

花言葉パターンとの組み合わせですが、植野さんの学校での立ち位置(美少女)を端的に表した服装ですね。

f:id:CobaltBombAO:20180401231256j:plain Cupid girl の文字が!

これは気がついた時に笑ってしまったのですが、将也くんに言われて、硝子の補聴器を投げる植野さんのTシャツの柄が『愛のキューピッド』。大好きな将也くんの為にキューピットをしてしまってるんですが、さすがに演出担当の方の悪意を感じました(笑)

服と関係ないですが、シューティングが好きな将也に対して、物を投げられない(コミュニケーションの苦手な)硝子の代わりに補聴器を投げてあげて、2人の恋愛をサポートしてしまっているという構造も面白いです。

食べ物で物語るパターン

f:id:CobaltBombAO:20180401232114j:plain 将也のつくったケーキを食べる硝子の母

食べるという行為は、生きるために必須な行為で、映像の中でもとても良く出てきます。種類や食べ方等など、人が生きてる事をとてもよく表現しています。

Ω:完全な作りものであるアニメにとって、食事カットは余計に大事だと思います。キャラクターが我々と同じようなものを食べていることで、白紙に描かれた彼らにも生活があると信じられるし、苦悩に共感することもできます。

f:id:CobaltBombAO:20180401232318j:plain 自殺を辞めた翌日、目玉焼きを食べるカット

自殺しようとした将也が翌日に目玉焼きを食べているカット。特に目玉焼きは卵 = 命を食べる事になるので直接的な表現です。ちゃんと生きようとしている事が表現されています。個人的には、このカットはホッとしました。

f:id:CobaltBombAO:20180401233146j:plain 将也が食べ物を分け与えようとするカット

ジブリ映画などでもよく出てくる表現だと思いますが、人に食べ物を渡すのは仲間になるとか家族になるといった親密度が一気にアップするイベントですね。あげる側としては食べ物は無くなったら死んでしまうような重要なアイテムです。できれば自分で食べてしまいたい所ですが、相手に渡すことで「一緒に生きたい」「一緒に楽しみたい」という事を表現できます。今回は当てはまらないとは思いますが、食べ物を渡すほど裕福という表現もできますね。

貰う側としても、もし食べ物に毒などが入っていたら最悪死んでしまうわけです。相手を信頼するとか、例外的に性格が無鉄砲でないと、食べ物を貰って食べるというイベントは成立しません。

f:id:CobaltBombAO:20180401233431j:plain 公園で保護された結弦。食べる事を嫌がっていたが、マリアに促され結局食べてしまうカット

実はこの映画でひたすら物を食べまくっているキャラクターがいます。

f:id:CobaltBombAO:20180401233754j:plain 病院の待合で牛乳パックを吸う結弦。もう中身が無いのに吸っているのは手持ち無沙汰なんでしょうか

f:id:CobaltBombAO:20180401233854j:plain 自宅の冷蔵庫へ牛乳をしまう結弦。口に牛乳がついてます(笑)

結弦なのですが、牛乳を飲んでいるところからすると、身長を伸ばしたいのではないでしょうか。他にも、おばあちゃんのしそジュース、ハンバーガー、ケーキ、たこやきなどなど食べています。成長期の子供には一杯食べて成長してもらいたいという制作者の気持ちがにじみ出ているようでした。

f:id:CobaltBombAO:20180401234123j:plain 将也がマンションから落ちてあわや死亡事故という所でギリギリ割れない黄身

将也がマンションのベランダから落ちた直後に挿入される走馬灯のようなカットに生卵が挿入されます。将也が生卵に例えられて、黄身が割れなかった = 死んでいないという事を想起させるのに一役買っています。また産み落とされたようにも見えます。個人的にはとても好きなカットです。

参考例 境界の彼方 第4話「橙」のレバニラ

f:id:CobaltBombAO:20180401234318j:plain 食費に困る栗山未来が先輩にレバニラをあげた

過去の京アニ作品にでてきた食べ物の中では、境界の彼方のレバニラが印象的でした。それまで人を避けてきた栗山未来、そしてついつい盆栽などにお金を掛けてしまい、食べ物に苦労している栗山未来が、秋人に対してはじめて心を許した事をレバニラをそっとあげることで表現していましたね。

対比するパターン

明暗やプラスとマイナスといった正反対の事を対比する表現はよくでてきます。

f:id:CobaltBombAO:20180401234528j:plain 河川敷で若者があげた花火

f:id:CobaltBombAO:20180401234645j:plain 自殺をしようとしたが花火の音でハッとさせられる将也

自殺しようと鉄橋に移動した将也でしたが、地元の若者があげた花火の音でハッとして飛び込む事を辞める事ができました。

f:id:CobaltBombAO:20180401234828j:plain 自殺をしようとした硝子が見た花火

硝子の飛び降りのカットですが、花火の音や後ろで将也の声や、机のモノが落ちて大きな音がしても聞こえない為、飛び込むことを辞められませんでした。演出的にもきらびやかなスローモーションの花火の映像に対して、音は無音となって、硝子の視点となっているのが印象的です。

(おまけ)絵コンテを読んだけど その1

2017年11月に行われた京アニ&DO感謝祭「私たちは今」に参加してきました。特に良かったのは聲の形をはじめとした京アニ作品の絵コンテの一部が展示されている所でした。山田監督の絵コンテを読んでみるとアニメをつくるための最低限の絵・演技・効果音の情報は載っているが、キャラクターの気持ちや演出の意図はほとんど書いていませんでした。

今回紹介したようなデザインパターンなども当然スタッフは理解しているのか?現場の打ち合わせでフォローしているのか?はたまた監督の意図を汲み取ってみんなで開発しているのか?監督だけが分かって仕込んでいるのか?垂直統合京都アニメーションだからできる映画なのか?これはけいおん!映画 Blu-ray特典の絵コンテを見て以来の疑問です。

まとめ

わたしなりに気がついた、聲の形京都アニメーションデザインパターンを紹介してみました。1カットずつ分析すればまだまだネタが散りばめられているとは思いますが、キリが無いのでこの辺で打ち止めとします。

こうしてまとめてみると、京都アニメーション山田尚子監督作品は、複数回の試聴で発見できるような情報が多く仕込まれているなと感じます。5今回紹介した映画「聲の形」以外の京都アニメーション作品でも、こういったデザインパターンが散見されると思いますので、是非これを元に過去の作品を再視聴してみるのもオススメです。皆さんのアニメ試聴の一助になれば幸いです。

そして2018年4月21日には山田尚子監督作品「リズと青い鳥」が公開されますが、こちらも俄然楽しみですね。

語り・編集 α / コメント Ω

引用


  1. 原作付きの作品ですので、実際は大今良時先生が考案された内容もあるかもしれませんが・・・

  2. 一部では紙作画と話題に

  3. 将也は結弦がお姉ちゃんを守るナイトのような立場になった原因とも言える相手なので、雨が振るのも納得の心境でしょう。

  4. ヴァイオレット・エヴァーガーデン第5話でも"恋"する王女様の庭園に"鯉"がいましたね。聲の形ファンには嬉しいカットでした。

  5. 京都アニメーションに限定しなくても、多くのアニメ作品や映画でも同様のパターンが取り入れられている可能性も大いにありますが・・・

誰も知らない巨大不明生物『シン・ゴジラ』

シン・ゴジラ

漂流船

f:id:CobaltBombAO:20171111231122g:plain 被曝する栄光丸

f:id:CobaltBombAO:20171111231123g:plain ゴジラ東京湾を漂流するGLORY MARU

f:id:CobaltBombAO:20171111231124g:plain サンゲリア』ニューヨーク湾を漂流するMORNING LADYⅡ。シークエンスがあまりにも似ているが、イタリアのゾンビ映画を真似る理由がない。

東京湾を漂流する船から始まりますが、これは初代『ゴジラ』からの引用です。1954年3月にビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験に巻き込まれて、漁船第五福竜丸が被曝する。『ゴジラ』が公開されたのが1954年11月。第五福竜丸の事件を踏まえ、水爆実験によって目覚めたゴジラによって、貨物船栄光丸が被曝するシーンから始まります。
シン・ゴジラ』で漂流しているのはGLORY MARUで、栄光丸に引っ掛けた名前です。仕切り直した『ゴジラ』(1984)も漂流船から、カイジュウ映画『パシフィック・リム』(2013)も、漁船がカイジュウと遭遇するところから始まりました。
怪獣映画ではないのですが、異様にそっくりなのが『サンゲリア』(1979)。ニューヨーク湾を漂流する無人のヨット、無線でのやり取り、パトロール員が乗り込んでみたら…こちらではゾンビが飛び出します。

α:ニコニコ動画風の画像が混じるのは庵野監督と川上量生に繋がりがあるからかな。川上量生庵野秀明の会社カラーの取締役をやってる。
ニュース番組風の映像も混じるけど、テレビ画面で観ると普段見てる番組と変わらないから、変にスケールダウンしてみえる。映画館で観たほうがいい作品だと思う。

日本のいちばん長い日

f:id:CobaltBombAO:20171111231125g:plain 大河内清次内閣総理大臣(大杉漣)

f:id:CobaltBombAO:20171111231126g:plain 『日本のいちばん長い日』鈴木貫太郎内閣総理大臣(笠智衆)

前半の会議シーンの連続は岡本喜八監督作『日本のいちばん長い日』(1967)を踏まえています。昭和20年8月14日から15日にかけて開かれた、ポツダム宣言を受諾して降伏するか否かの会議と混乱を再現した映画。名前と役職がテロップで出るところもよく似ています。
岡本喜八監督の写真が、作中で牧吾郎博士として使われてますね。

蒲田上陸

f:id:CobaltBombAO:20171111231127g:plain 東日本大震災津波を思い起こさせる

α:ボートや瓦礫が押し寄せるシーンは東日本大震災津波を思い起こさせるよね。監督自体は、あの震災や原発の対応に意見がしたいというよりは、東京のど真ん中で原発事故のような大災害が起こったらどうなるというシミュレーションがしたかったように思う。

作中で東日本大震災について触れられることはないね。被害を受けた方、関係者がたくさんいるから触れられないと思うんだけど。

α:蒲田の第二形態は本当に気持ち悪い。最初に見た時にゴジラだとは思わなくて、これとゴジラが戦うんだと思った。

事前情報が全然出なかったんだよね。話もゴジラの形態も分からなかった。

α:ゴジラって元々何なの?

最初のだと水爆実験がきっかけで出てきた恐竜の生き残り。これまでのゴジラ映画は基本的に1954年にゴジラが出現したことが事実としてあって、映画の登場人物はゴジラを知っているんだけど、本作では過去のゴジラはなかったことになっている。作中の人物はゴジラを知らないし、観客としてもイメージと違うゴジラが出てくる。そういう意味で新ゴジラではある。

タバ作戦〜都心壊滅

f:id:CobaltBombAO:20171111231128g:plain ゴジラの身長が118.5m、いちばん高いマンションがパークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーで203.5m

多摩川自衛隊が迎え撃ちますが、ここの流れが見事だと思います。武蔵小杉駅周辺は再開発が進んでいて、150〜200mのマンションが局所的に建っているので、ゴジラの高さの比較がしやすい。そこから北に1km、多摩川を越えて東京に入られたら負けというのも分かりやすい。
攻撃ヘリの準備完了から順に統合幕僚長防衛大臣へと状況が伝えられ、総理大臣が攻撃を指示すると、それが逆に戻っていく。攻撃は20mmガトリング砲から始まって、戦車砲、ロケット、爆撃とエスカレート。しかしゴジラには効果がない。日本の国家最大の意思と武力をぶつけても止められない、ゴジラの圧倒的な強さが分かりやすく示されます。

α:躊躇して会議を繰り返しているうちにどんどん被害が広がっていく。日本は会社もそうだけど、ルールがいっぱいある割には、現場の裁量や決定権が無い。避難できなくて数人被害にあっても、それで何十万人助かるならそれでいいとような判断が出来ないか?この映画自体はどっちがいいという結論は出してないけど、日本の組織のなかなか意思決定しない、根本の解決に着手しないもどかしさを描いている気がする。

f:id:CobaltBombAO:20171111231129g:plain ヘリコプターはゴジラを攻撃してないので、熱くなってついうっかり

α:ゴジラが総理たちをぶっ殺すじゃない。高齢社会で金や権力を持った老人ばかりだと世の中硬直しちゃうから、どこかでリセットしたいという監督の願望が出ている。とはいえ庵野秀明エヴァンゲリオンで大成功した追われる側の監督、自分の立場を顧みないでこういった主張をしているのは好感をもてる。

立川広域防災基地

f:id:CobaltBombAO:20171111231130g:plain 東京都立川市のモノレール基地

f:id:CobaltBombAO:20171111231131g:plain ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破第三新東京市のモノレール基地

ゴジラに都心を壊滅させられて、政府機能は立川に移動します。私は立川のシネマシティで観てたんですけど、すぐ近くで映画が進行している、居ながらにしてここが聖地なのかと思うと、とても興奮しました。
矢口とカヨコが核兵器の使用について話すシーン、背景はモノレールの基地ですが『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009)でも似たようなシーンがありましたね。

ヤシオリ作戦

f:id:CobaltBombAO:20171111231132g:plain 『日本誕生』ヤシオリノサケを飲むヤマタノオロチ

ヤシオリ作戦の名前は、日本神話のヤマタノオロチ退治に用いられたヤシオリノサケから取られています。血液凝固剤を運ぶポンプ車のコールサインはアメノハバキリで、これは首を切り落とした剣の名前。
日本神話を題材にした映画としては『日本誕生』(1959)。三船敏郎扮するスサノオノミコトと、円谷英二特撮監督によるヤマタノオロチの対決シーンがあります。ヤマタノオロチは八首龍なので、ゴジラというよりはキングギドラの原型ですね。
ヤマタノオロチについていえば、庵野秀明樋口真嗣は過去に映画『八岐之大蛇の逆襲』(1984)を撮っています。(庵野秀明が出演・ミニチュア制作、樋口真嗣が特撮監督。)コメディ色の強い作品ですが、怪獣と軍隊による市街戦はリアルで、本作に通ずるところがあると思います。

無人在来線爆弾

f:id:CobaltBombAO:20171111231133g:plain キングコング』高架の電車を引き倒す世界8番目の不思議

f:id:CobaltBombAO:20171111231134g:plain 螺旋状に飛び上がる無人在来線爆弾

f:id:CobaltBombAO:20171111231135g:plain 電車男』オープニングアニメ「月面兎兵器ミーナ

爆弾を詰め込んだ電車、新幹線をゴジラにぶつけて攻撃しますが、怪獣映画に電車は付き物です。古くは『キングコング』(1933)、ニューヨークを走る電車を掴んで暴れます。『ゴジラ』(1954)でも電車を、『ゴジラ』(1984)では新幹線を襲っています。無人在来線爆弾はゴジラの周りで螺旋状に飛び跳ねて爆発しますが、テレビドラマ版の『電車男』(2005)のオープニングアニメみたいだと思いました。これは元ネタがDAICON IVですね。

太陽を盗んだ男

f:id:CobaltBombAO:20171111231136g:plain 科学技術館六芒星の外壁

f:id:CobaltBombAO:20171111231137g:plain 太陽を盗んだ男』山下警部、撃たれて蜂の巣になりながら見事な伸身宙返り

f:id:CobaltBombAO:20171111231138g:plain 仁義なき戦い』背景は原爆のキノコ雲

矢口が指揮を執るのは科学技術館の屋上、六芒星がかたどられた外壁が特徴的です。皇居の北、東京のほぼ中心にある科学振興施設で事態の行く末を見守るというのが象徴的です。
ここは沢田研二が原爆をDIYする映画『太陽を盗んだ男』(1979)で出てきます。プルトニウムを盗んで原爆を作った城戸(沢田研二)と山下警部(菅原文太)が戦うのですが、山下警部は拳銃でいくら撃たれても死なない!おそらく山下警部は原子力で動いているのではないか。菅原文太といえば『仁義なき戦い』(1973)ですが、あの映画は広島の原爆投下から始まり、その暴力性の連鎖としてヤクザ達の抗争が描かれました。それを踏まえ、山下警部は核兵器の化身でありながら人類に警鐘を鳴らす、ゴジラの様な役回りをしたのではないかと思っています。

ゴジラの尾〜スタッフロール

f:id:CobaltBombAO:20171111231139g:plain 『日本誕生』世界のミフネ、アメノムラクモノツルギをゲット!

最後は人間の様なものに変わりつつあるゴジラの尾で終わります。ヤマタノオロチ退治では、尾を叩き斬ろうとしたら、中から三種の神器の一つであるアメノムラクモノツルギ(クサナギノツルギ)が出てきました。ゴジラの尾に何があるのか。人型でレーザーを出す神がかった武力となると、巨神兵ですかね。庵野監督の作品世界にリンクしていきそうで、楽しみでもあり、商売上手いなと思ったり。

α:恋愛要素が一切なくて良かったね。最後にキスシーンとか入れろって言われそうだけど、ないのがいい。

キャストの最後には野村萬斎。出てたかな?と思ったらゴジラモーションキャプチャーでしたね。そう考えると、鎌倉から上がってきてノソノソ歩くゴジラ野村萬斎に見えてくる。蒲田のも演じたのかな。

α:演じたんじゃないの。巨大野村萬斎が這って迫ってきたら、自衛隊はもっと早く攻撃してたと思う。シンゴジラの続編は、ゴジラという体の巨大野村萬斎と、帰ってきたウルトラマンという体の巨大庵野秀明の対決を見てみたい!

感想

私は公開初日の夜、立川シネマシティの爆音上映で観ました。劇場内は40、50代の会社帰りのオタク達で満員、最高の環境でした。意外な展開にどよめき、静かな興奮が高まっていって、映画が終わった時には割れんばかりの拍手喝采。最初はいまさら日本でゴジラなんてと思ってましたが、良かったです。庵野監督の次回作はシン・ヱヴァンゲリヲン:||でしょうか。本作から取り入れられる部分もあるでしょうし、楽しみです。

引用

童貞への郷愁『君の名は。』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』

君の名は。

男女入れ替わり と おっぱい

f:id:CobaltBombAO:20171026212429g:plain 乳首は0回

冒頭は作中の事件が一通り終わった、エンディングの直前から始まりますね。瀧君は就活中、三葉ちゃんも東京在中です。

まず入れ替わって胸を揉むんですが、なんで胸は映さないんですかね。男女入れ替わり映画の元祖、大林宣彦監督の『転校生』(1982)を見た*1んですけど、中3男子(尾身としのり)と中3女子(小林聡美)が入れ替わる。小林聡美は撮影時16か17歳かと思いますが、ばんばん胸を出してます。そのせいなのか、DVD販売はしてるんですけど、レンタルは古いVHSだけです。三葉ちゃんにも頑張ってほしかった。

f:id:CobaltBombAO:20171026214602p:plain 『転校生』乳首は3回。

あと胸を揉むシーンで思い出したのは『ヒドゥン』(1987)ですね。ナメクジみたいなエイリアンが人体を乗っ取って、殺人や強盗を繰り返す映画なんですけど、ストリッパーの体を乗っ取ったときにこれが女の体かと胸を揉みしだくシーンがあります。だから瀧君の正体はナメクジ型エイリアンかと推測しながら観てたのですが、そんなことはなかったです。*2

f:id:CobaltBombAO:20171026215330g:plain 『ヒドゥン』見直してみたら『君の名は。』とそっくりだ!

途中から、三葉ちゃんのパジャマが変わって、ブラジャーの肩ひもが見えます。当初はノーブラでしたが、胸を直に揉まれないように備えてたんですね。ブラジャーで意思表示する、芸の細かさに映画館で泣きました。

f:id:CobaltBombAO:20171026220205g:plain おそらく瀧君はブラジャーを外せないので、かなり効果的。

口噛み酒は人生の岐路

f:id:CobaltBombAO:20171026215550g:plain 巫女の口噛み酒

物語のカギとして口噛み酒が登場しますが、口噛み酒といえば『セデック・バレ』(2011)です。日本統治時代の台湾で先住民のセデック族が反乱を起こす、史実を基にした映画(2部作4時間36分)。セデック族が日本兵を宴会に誘うんですが、「口噛み酒なんて不潔なものが飲めるか!」とぶち壊してしまう。他いろいろあって反乱を起こすんですが、セデック族は首狩り族だったので、日本人の首がポンポン飛びます。特に後編は2時間概ねポンポン。

マユゴロウの大火で由来は分からなくなっていますが、きっと宮水家はセデック族と関係がありますよ。チャラチャラした男の子が口噛み酒を見て「よくやるよ」なんてバカにしてますが、この後彼の首が飛びます。

α:いや、最後の方でローソンのレジ打ちやってますよ。

口噛み酒を勧められたら、それは人生の岐路です。飲めば彼女ができるし、断れば首が飛ぶ。迷わず飲みましょう。

f:id:CobaltBombAO:20171026215719g:plain セデック・バレ』セデック族の口噛み酒(左手にお猪口)

都立高校生の日常

入れ替わった2人の日常が描かれます。男3人でおしゃれなカフェに通っていますが、元都立高校生としてはどうですか。

α:あり得ない!このパンケーキで2000円とかするでしょ。ファミレスかマックがいいとこです。山の手の私立高校に通っているような一部の子ならありえますが、一般的な都立高校生には縁がない世界観ですね・・・。田舎の学生の東京に対する憧れを見て取れます。

f:id:CobaltBombAO:20171026215804g:plain 聖徳記念絵画館明治天皇の愛馬、金華山号の剥製もある。

左手に描かれている建物ですが、神宮外苑の中心にある聖徳記念絵画館ですね。ここオススメです。明治天皇の生涯を、前半を日本画40枚、後半を洋画40枚の展示で伝えています。僕が行った時はお客さんが数人しかいなくて、時間が止まったみたいで良かったです。

f:id:CobaltBombAO:20171026220110g:plain恋敵の肩を持ってしまって「私何やってるんだろう…」ありがちな展開で吹いた。

α:なんで三葉ちゃんは泣いてるの?

瀧君のことが好きなのに、先輩との仲を取り持っちゃったからでしょ。

α:え!好きになるきっかけとか展開ってあった?

無いですね。ここまで日報を交わしているだけで、本人と会ったこともない。ダイジェスト的な前前前世のPVが流れれば、なんとなく惹かれ合ってる感じになるんでしょう。

忘却が話の推進力

f:id:CobaltBombAO:20171026220148g:plain ファインディング・ドリー』フラッシュバックする魚

糸守町に辿りつくんですけど、ここで観客は「「3年前に起きた隕石落下という大災害」をすっかり忘れている瀧君」に衝撃を受けます。隕石落下は瀧君が中学生の時に体験してるわけで、夢とは関係ない、ただの物忘れです。事件は既に終わっていて、ここまで思い出してるだけ。病的なまでの物忘れは『ファインディング・ドリー』(2016)のドリーに匹敵します。2016年夏は物忘れ映画の夏だったんですね。

f:id:CobaltBombAO:20171026220526g:plain フラッシュバックする人間

物忘れついでに糸守町に着いた途端に携帯電話の日記が消えますが、なぜ消えたかのかさっぱり分からない。三葉ちゃんが死んで関連するものが消えるのだったら、先輩とのデートの翌日に消えてるはずだし。いろいろ考えたんですが、たぶん偶然壊れたんでしょうね。突然故障する事はありますから、バックアップ取ってないと大変です。

糸守町にて

f:id:CobaltBombAO:20171026220625g:plain 誰か手の傷の意味を教えてください。

映画館で見た時に、ラーメン屋のおじさんの手の傷に気付いたんです。それで周りの『君の名は。』を見た人に、あの傷なんですかねって聞いたんですが、一体何を言っているのかと狂人扱いされました。

α:確かに左手にミミズ腫れのようなものがある。

私は狂っていない!思うに、ラーメン屋のおじさんもセデック族の生き残りで、傷は日本兵と戦った時の銃創なんじゃないでしょうか。

α:狂ってる…!隕石が落下した時に破片か何か当たったんじゃないの?

まあそんなところでしょうね。

f:id:CobaltBombAO:20171026220801g:plain この間、高校生の司は隣でミルクティーを飲んで絶望している。

旅館で奥寺先輩が唐突にタバコを喫いだすので吹き出しました。憧れの先輩と同じ部屋に泊まれるのだから、男子高校生としては当然あわよくばと思います。が、昼間あんなに無邪気だった先輩は、急に越えられない二十歳の壁を見せつけて突き放します。先輩は映画の最後でも誰かとの結婚指輪を見せつけてきますから、イヤらしい人です。

f:id:CobaltBombAO:20171026220119g:plain 彗星は既に糸守町を通り過ぎているが、奇跡が起きて町が壊滅する。

黄昏時のシーンなんですが、夕日が沈んでいく画面奥が西、彗星もかなり西に進んでいます。地球は画面手前に自転しているわけだから、彗星がすでに通り過ぎた糸守に落下するのはおかしいのでは。もっと西の、ヨーロッパとかに落ちるのだったら分かるけど。

α:新海監督が神の見えざる手で彗星の時間を巻き戻したんですね。映像的に彗星が空を駆けていくところも見せたいし、糸守に落下もさせたい。彗星がどこに見えるかなんてどうでもいいですよ。

あと彗星の名前なんですが、ティアマトってメソポタミアの女神で、海や洪水を象徴するらしいんです。だからこんな名前をつけたのがそもそもの間違いです。彗星にティアマトって名付けちゃダメ!

再会

最後、並走する電車でお互いに気付いて、慌てて探します。瀧君が降りたのが新宿駅、三葉ちゃんが降りたのが千駄ヶ谷駅です。二人とも最寄り駅で降りたと想定したのなら、中間地点の代々木駅周辺で遭遇するはず。しかし再会したのは両駅から東の四谷須賀神社前の階段。新宿駅からは歩いて30分もかかる住宅地のど真ん中です。普通はこんな所での再会はあり得ない。

α:代々木駅周辺には、監督のお眼鏡にかなうエモい階段がなかったんでしょう。

全体の展開で引っかかるところがいくつかあるんですが、矛盾のない解釈があるとすれば、全部夢だったのかなと。最初と最後だけが現実。 瀧君目線でいくと、女の子と入れ替わる不思議な夢を見た。そうしたら街中でそっくりな子を発見。30分も探し回って、思いがけない場所で再会。どこかで会ったことない?と勇気を出してナンパしたら、女の子が突然泣き出した。これなら筋が通る!

α:なんか怖いよ!

作り手としては整合性をそこまで重視してないんでしょうね。細かい辻褄合わせも検討したと思うんですが、それよりもエモーショナルな映像と話を選択し、結果爆発的にヒットした。20代の知り合いが、アニメ的にこうなれば良いのに!と思ったことがその通り起こるから、めちゃくちゃアガると言ってて、そういうベスト盤的な面白さがあると思いました。

α:この映画を見た時に一番初めに思い描いた言葉は、EDMでした。新海誠のこれまでの作品をマッシュアップしたような既視感のあるシーンやカットの繫ぎで盛り上がるし(花澤先生♡)特に度肝を抜かれたのが、震災の傷が癒えたとは言えない2016年(企画段階だと2014年か2015年でしょうか)に、未曾有の災害で亡くなった死者が生きかえって再び出会えるという、流石にサンプリングするには躊躇するようなネタを、エモに昇華させて、そしてほとんど疑問を持たせずに広めていた事です。新海誠はEDMというかナードコア界のトップDJになれると予感したのを憶えています。

言の葉の庭

f:id:CobaltBombAO:20171026220950j:plain こんな高校生がいたら思い切りぶつかります。

冒頭のモノローグ、満員電車で不快なものとして、まず制服とスーツが挙げられます。つまり進学、就職して会社員という、大多数の人が選ぶ道を主人公の孝雄は下に見ている。自分は将来どうやって食べていくのかという焦りは分かりますが、だからと言って他人を蔑むのは良くない。満員のホームに立ち止まり、空を眺めて通勤・通学者をバカにするポエムを吟じてたらボコボコにされますよ。 女性が不快そうに主人公を睨みながら通り過ぎていきます。思春期の未熟さを貫きつつ、批判的な部分が時々混ざるバランスがちょっと不思議です。

新宿御苑に200円のチケットを買って入っていますが、年間パスポートを買った方がお得です。一般は2000円、高校生1000円、高校生の孝雄は5回行けば元が取れますよ! 花澤先生がいる東屋、午前中行ってきましたよ。

α:花澤先生いた?

いや、オタクっぽい男性が3人、携帯いじってた。

α:現実はそんなもんですね。

ビールとチョコレートは、大人と子供の象徴なんでしょう。花澤先生自身が27歳の私は15歳の私より賢くないと言うんですが、仕事に行けないのは子供で我慢が足りないからってことなんでしょうか。ちょっとここは納得がいかなくて。仕事に対して真剣だからこそ、ストレスで参って味覚障害にまで至ったんだと思います。カウンセリングを受けるとか、積極的に治療する描写があっても良かった。

f:id:CobaltBombAO:20171026221037j:plain 初々しい子供

f:id:CobaltBombAO:20171026221108g:plain フロム・ダスク・ティル・ドーン』どうしようもない大人

足の描き方がフェティッシュな感じですね。酒と足で思い出したのは『フロム・ダスク・ティル・ドーン』。女性の足に垂らした酒を、クエンティン・タランティーノがつま先から飲みます。東屋でこんなことやってたらびっくりしますが。

最後、孝雄が飛び出していきますが、帰るでもなく外階段の踊り場で待っている。そして花澤先生がはじめから嫌いだったと言いますが、そんなことはないわけです。俺をバカにしたとか、プライドを守るための強がりでしかない。この辺は花澤先生と違ってちゃんと幼いなと思います。 花澤先生は四国に帰ってますが、『君の名は。』でも先生やってましたね。

秒速5センチメートル

「栃木って遠いのかな…」が絶妙にイタくて最高ですね。周りに彼女がいることを自慢したいけど、冷やかされるのも嫌だから、思わせぶりなセリフで相手からの詮索を待つ。

f:id:CobaltBombAO:20171026220305j:plain ここ、どこ…

α:ここどこですか?別の惑星から地球を見てるの?

貴樹君が携帯電話に書いてる、明里ちゃんがヒロインのラノベじゃないですか。 第二部のコスモナウトってタイトルはなんですかね。ロシア語だと宇宙飛行士はコスモノートっていうみたいですけど、作中にロシアは出てこない。 立ち寄るコンビニは『君の名は。』でも同じものが出てましたね。 貴樹君は明里ちゃんに執着し続けますが、花苗ちゃんは波に乗れるようになって、貴樹君にケリをつけられるんですね。

第三部で貴樹君は年齢としては成人して、ビール飲んでタバコも吸うようになります。地味子と事後のカットもあって、女性を抱いたこともあるんだけど、明里ちゃんから脱却できない。対する明里ちゃんの薬指には誰かからもらった結婚指輪がはまっていて、貴樹くんとの事はいい思い出ぐらいになっている。第二部の花苗ちゃんもそうですが、女性陣は貴樹君を置いて前進できた。

三作品の総括

続けてみると共通点が見えてきます。 大人はビールかタバコを嗜む。憧れの女性は踏切の向こうにいるか、誰かからもらった結婚指輪をしていて、自分の元には来ない。この辺はお決まりの表現として出てきます。

α:新海監督は何を表現したいのだろう?

共通するのは童貞への郷愁なんじゃないでしょうか。純粋で、些細なことでドキドキした。初恋の相手と一緒になるため、早く大人になりたかった。でも初恋の相手とは結ばれなくて、別の女性を抱いたところで、むしろドキドキが減るばかり。童貞の頃に戻りてえ!と。

少年が恋愛において、仕事において大人になろうとする過程を描いてますが、何をもって大人になるといえるか。一つには自分への固執を捨てて、何かになりきれるかだと思います。

『秒速〜』の貴樹は、恋愛としては明里に執着して地味子とは上手くいかない。仕事も一旦企業に属するけれども馴染めずに、フリーのプログラマー、人と極力関わらない仕事を選ぶ。努力はしたけど結果的に自分から抜け出せない。

言の葉の庭』の孝雄は、花澤先生とは一応上手くいくが離れてしまう。仕事は企業に属することを嫌悪して靴職人修行を始める。スタートを切ったところで終わるから、この先どうなるかは分からないですね。

君の名は。』は特殊で、見ず知らずの別人になるところからスタートする。こうなると自分に固執することは不可能なので、過去の2作とは全く異なる。最終的に主人公は大人になったのかなと思います。恋愛の対象を奥寺先輩から三葉に切り替えることができた。仕事はゼネコンを希望し、大組織、社会の中にいることを選んだ。作中、瀧がスーツが似合ってないと言われるのは、これまでの作品では企業に属することを拒否してきたけど今回は就活をする、照れなのかもしれません。

個人的な感想を言えば、3作では『秒速~』が良かったです。童貞のシミュレーションが絶妙で苦笑いしながら楽しめるし、徹底的なバッドエンドも、もしもの体験として考えさせられる。 『言の葉の庭』『君の名は。』とポジティブに、また分かりやすくなって、新海監督の知名度も増していきましたが、実は次回作で観客を絶望の底に突き落とす前フリだった、ってことになると良いな。

語り Ω / 編集 α

引用

*1:Ωは映画を見る際に、過去作品からの引用やイメージの拝借などの繋がり把握した上で立体的に捉えようとする男であるため、元ネタや似たシーンがある映画の話しが沢山でてくる

*2:が、映画に詳しくない者からすると、本当にそれは元ネタなのか?と疑問を持たざるを得ないような作品が引き合いに出されたりする所が魅力。