映画が終わらない

映画館の暗がりが落ち着くΩと京アニ好きのαによる与太話

童貞への郷愁『君の名は。』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』

君の名は。

男女入れ替わり と おっぱい

f:id:CobaltBombAO:20171026212429g:plain 乳首は0回

冒頭は作中の事件が一通り終わった、エンディングの直前から始まりますね。瀧君は就活中、三葉ちゃんも東京在中です。

まず入れ替わって胸を揉むんですが、なんで胸は映さないんですかね。男女入れ替わり映画の元祖、大林宣彦監督の『転校生』(1982)を見た*1んですけど、中3男子(尾身としのり)と中3女子(小林聡美)が入れ替わる。小林聡美は撮影時16か17歳かと思いますが、ばんばん胸を出してます。そのせいなのか、DVD販売はしてるんですけど、レンタルは古いVHSだけです。三葉ちゃんにも頑張ってほしかった。

f:id:CobaltBombAO:20171026214602p:plain 『転校生』乳首は3回。

あと胸を揉むシーンで思い出したのは『ヒドゥン』(1987)ですね。ナメクジみたいなエイリアンが人体を乗っ取って、殺人や強盗を繰り返す映画なんですけど、ストリッパーの体を乗っ取ったときにこれが女の体かと胸を揉みしだくシーンがあります。だから瀧君の正体はナメクジ型エイリアンかと推測しながら観てたのですが、そんなことはなかったです。*2

f:id:CobaltBombAO:20171026215330g:plain 『ヒドゥン』見直してみたら『君の名は。』とそっくりだ!

途中から、三葉ちゃんのパジャマが変わって、ブラジャーの肩ひもが見えます。当初はノーブラでしたが、胸を直に揉まれないように備えてたんですね。ブラジャーで意思表示する、芸の細かさに映画館で泣きました。

f:id:CobaltBombAO:20171026220205g:plain おそらく瀧君はブラジャーを外せないので、かなり効果的。

口噛み酒は人生の岐路

f:id:CobaltBombAO:20171026215550g:plain 巫女の口噛み酒

物語のカギとして口噛み酒が登場しますが、口噛み酒といえば『セデック・バレ』(2011)です。日本統治時代の台湾で先住民のセデック族が反乱を起こす、史実を基にした映画(2部作4時間36分)。セデック族が日本兵を宴会に誘うんですが、「口噛み酒なんて不潔なものが飲めるか!」とぶち壊してしまう。他いろいろあって反乱を起こすんですが、セデック族は首狩り族だったので、日本人の首がポンポン飛びます。特に後編は2時間概ねポンポン。

マユゴロウの大火で由来は分からなくなっていますが、きっと宮水家はセデック族と関係がありますよ。チャラチャラした男の子が口噛み酒を見て「よくやるよ」なんてバカにしてますが、この後彼の首が飛びます。

α:いや、最後の方でローソンのレジ打ちやってますよ。

口噛み酒を勧められたら、それは人生の岐路です。飲めば彼女ができるし、断れば首が飛ぶ。迷わず飲みましょう。

f:id:CobaltBombAO:20171026215719g:plain セデック・バレ』セデック族の口噛み酒(左手にお猪口)

都立高校生の日常

入れ替わった2人の日常が描かれます。男3人でおしゃれなカフェに通っていますが、元都立高校生としてはどうですか。

α:あり得ない!このパンケーキで2000円とかするでしょ。ファミレスかマックがいいとこです。山の手の私立高校に通っているような一部の子ならありえますが、一般的な都立高校生には縁がない世界観ですね・・・。田舎の学生の東京に対する憧れを見て取れます。

f:id:CobaltBombAO:20171026215804g:plain 聖徳記念絵画館明治天皇の愛馬、金華山号の剥製もある。

左手に描かれている建物ですが、神宮外苑の中心にある聖徳記念絵画館ですね。ここオススメです。明治天皇の生涯を、前半を日本画40枚、後半を洋画40枚の展示で伝えています。僕が行った時はお客さんが数人しかいなくて、時間が止まったみたいで良かったです。

f:id:CobaltBombAO:20171026220110g:plain恋敵の肩を持ってしまって「私何やってるんだろう…」ありがちな展開で吹いた。

α:なんで三葉ちゃんは泣いてるの?

瀧君のことが好きなのに、先輩との仲を取り持っちゃったからでしょ。

α:え!好きになるきっかけとか展開ってあった?

無いですね。ここまで日報を交わしているだけで、本人と会ったこともない。ダイジェスト的な前前前世のPVが流れれば、なんとなく惹かれ合ってる感じになるんでしょう。

忘却が話の推進力

f:id:CobaltBombAO:20171026220148g:plain ファインディング・ドリー』フラッシュバックする魚

糸守町に辿りつくんですけど、ここで観客は「「3年前に起きた隕石落下という大災害」をすっかり忘れている瀧君」に衝撃を受けます。隕石落下は瀧君が中学生の時に体験してるわけで、夢とは関係ない、ただの物忘れです。事件は既に終わっていて、ここまで思い出してるだけ。病的なまでの物忘れは『ファインディング・ドリー』(2016)のドリーに匹敵します。2016年夏は物忘れ映画の夏だったんですね。

f:id:CobaltBombAO:20171026220526g:plain フラッシュバックする人間

物忘れついでに糸守町に着いた途端に携帯電話の日記が消えますが、なぜ消えたかのかさっぱり分からない。三葉ちゃんが死んで関連するものが消えるのだったら、先輩とのデートの翌日に消えてるはずだし。いろいろ考えたんですが、たぶん偶然壊れたんでしょうね。突然故障する事はありますから、バックアップ取ってないと大変です。

糸守町にて

f:id:CobaltBombAO:20171026220625g:plain 誰か手の傷の意味を教えてください。

映画館で見た時に、ラーメン屋のおじさんの手の傷に気付いたんです。それで周りの『君の名は。』を見た人に、あの傷なんですかねって聞いたんですが、一体何を言っているのかと狂人扱いされました。

α:確かに左手にミミズ腫れのようなものがある。

私は狂っていない!思うに、ラーメン屋のおじさんもセデック族の生き残りで、傷は日本兵と戦った時の銃創なんじゃないでしょうか。

α:狂ってる…!隕石が落下した時に破片か何か当たったんじゃないの?

まあそんなところでしょうね。

f:id:CobaltBombAO:20171026220801g:plain この間、高校生の司は隣でミルクティーを飲んで絶望している。

旅館で奥寺先輩が唐突にタバコを喫いだすので吹き出しました。憧れの先輩と同じ部屋に泊まれるのだから、男子高校生としては当然あわよくばと思います。が、昼間あんなに無邪気だった先輩は、急に越えられない二十歳の壁を見せつけて突き放します。先輩は映画の最後でも誰かとの結婚指輪を見せつけてきますから、イヤらしい人です。

f:id:CobaltBombAO:20171026220119g:plain 彗星は既に糸守町を通り過ぎているが、奇跡が起きて町が壊滅する。

黄昏時のシーンなんですが、夕日が沈んでいく画面奥が西、彗星もかなり西に進んでいます。地球は画面手前に自転しているわけだから、彗星がすでに通り過ぎた糸守に落下するのはおかしいのでは。もっと西の、ヨーロッパとかに落ちるのだったら分かるけど。

α:新海監督が神の見えざる手で彗星の時間を巻き戻したんですね。映像的に彗星が空を駆けていくところも見せたいし、糸守に落下もさせたい。彗星がどこに見えるかなんてどうでもいいですよ。

あと彗星の名前なんですが、ティアマトってメソポタミアの女神で、海や洪水を象徴するらしいんです。だからこんな名前をつけたのがそもそもの間違いです。彗星にティアマトって名付けちゃダメ!

再会

最後、並走する電車でお互いに気付いて、慌てて探します。瀧君が降りたのが新宿駅、三葉ちゃんが降りたのが千駄ヶ谷駅です。二人とも最寄り駅で降りたと想定したのなら、中間地点の代々木駅周辺で遭遇するはず。しかし再会したのは両駅から東の四谷須賀神社前の階段。新宿駅からは歩いて30分もかかる住宅地のど真ん中です。普通はこんな所での再会はあり得ない。

α:代々木駅周辺には、監督のお眼鏡にかなうエモい階段がなかったんでしょう。

全体の展開で引っかかるところがいくつかあるんですが、矛盾のない解釈があるとすれば、全部夢だったのかなと。最初と最後だけが現実。 瀧君目線でいくと、女の子と入れ替わる不思議な夢を見た。そうしたら街中でそっくりな子を発見。30分も探し回って、思いがけない場所で再会。どこかで会ったことない?と勇気を出してナンパしたら、女の子が突然泣き出した。これなら筋が通る!

α:なんか怖いよ!

作り手としては整合性をそこまで重視してないんでしょうね。細かい辻褄合わせも検討したと思うんですが、それよりもエモーショナルな映像と話を選択し、結果爆発的にヒットした。20代の知り合いが、アニメ的にこうなれば良いのに!と思ったことがその通り起こるから、めちゃくちゃアガると言ってて、そういうベスト盤的な面白さがあると思いました。

α:この映画を見た時に一番初めに思い描いた言葉は、EDMでした。新海誠のこれまでの作品をマッシュアップしたような既視感のあるシーンやカットの繫ぎで盛り上がるし(花澤先生♡)特に度肝を抜かれたのが、震災の傷が癒えたとは言えない2016年(企画段階だと2014年か2015年でしょうか)に、未曾有の災害で亡くなった死者が生きかえって再び出会えるという、流石にサンプリングするには躊躇するようなネタを、エモに昇華させて、そしてほとんど疑問を持たせずに広めていた事です。新海誠はEDMというかナードコア界のトップDJになれると予感したのを憶えています。

言の葉の庭

f:id:CobaltBombAO:20171026220950j:plain こんな高校生がいたら思い切りぶつかります。

冒頭のモノローグ、満員電車で不快なものとして、まず制服とスーツが挙げられます。つまり進学、就職して会社員という、大多数の人が選ぶ道を主人公の孝雄は下に見ている。自分は将来どうやって食べていくのかという焦りは分かりますが、だからと言って他人を蔑むのは良くない。満員のホームに立ち止まり、空を眺めて通勤・通学者をバカにするポエムを吟じてたらボコボコにされますよ。 女性が不快そうに主人公を睨みながら通り過ぎていきます。思春期の未熟さを貫きつつ、批判的な部分が時々混ざるバランスがちょっと不思議です。

新宿御苑に200円のチケットを買って入っていますが、年間パスポートを買った方がお得です。一般は2000円、高校生1000円、高校生の孝雄は5回行けば元が取れますよ! 花澤先生がいる東屋、午前中行ってきましたよ。

α:花澤先生いた?

いや、オタクっぽい男性が3人、携帯いじってた。

α:現実はそんなもんですね。

ビールとチョコレートは、大人と子供の象徴なんでしょう。花澤先生自身が27歳の私は15歳の私より賢くないと言うんですが、仕事に行けないのは子供で我慢が足りないからってことなんでしょうか。ちょっとここは納得がいかなくて。仕事に対して真剣だからこそ、ストレスで参って味覚障害にまで至ったんだと思います。カウンセリングを受けるとか、積極的に治療する描写があっても良かった。

f:id:CobaltBombAO:20171026221037j:plain 初々しい子供

f:id:CobaltBombAO:20171026221108g:plain フロム・ダスク・ティル・ドーン』どうしようもない大人

足の描き方がフェティッシュな感じですね。酒と足で思い出したのは『フロム・ダスク・ティル・ドーン』。女性の足に垂らした酒を、クエンティン・タランティーノがつま先から飲みます。東屋でこんなことやってたらびっくりしますが。

最後、孝雄が飛び出していきますが、帰るでもなく外階段の踊り場で待っている。そして花澤先生がはじめから嫌いだったと言いますが、そんなことはないわけです。俺をバカにしたとか、プライドを守るための強がりでしかない。この辺は花澤先生と違ってちゃんと幼いなと思います。 花澤先生は四国に帰ってますが、『君の名は。』でも先生やってましたね。

秒速5センチメートル

「栃木って遠いのかな…」が絶妙にイタくて最高ですね。周りに彼女がいることを自慢したいけど、冷やかされるのも嫌だから、思わせぶりなセリフで相手からの詮索を待つ。

f:id:CobaltBombAO:20171026220305j:plain ここ、どこ…

α:ここどこですか?別の惑星から地球を見てるの?

貴樹君が携帯電話に書いてる、明里ちゃんがヒロインのラノベじゃないですか。 第二部のコスモナウトってタイトルはなんですかね。ロシア語だと宇宙飛行士はコスモノートっていうみたいですけど、作中にロシアは出てこない。 立ち寄るコンビニは『君の名は。』でも同じものが出てましたね。 貴樹君は明里ちゃんに執着し続けますが、花苗ちゃんは波に乗れるようになって、貴樹君にケリをつけられるんですね。

第三部で貴樹君は年齢としては成人して、ビール飲んでタバコも吸うようになります。地味子と事後のカットもあって、女性を抱いたこともあるんだけど、明里ちゃんから脱却できない。対する明里ちゃんの薬指には誰かからもらった結婚指輪がはまっていて、貴樹くんとの事はいい思い出ぐらいになっている。第二部の花苗ちゃんもそうですが、女性陣は貴樹君を置いて前進できた。

三作品の総括

続けてみると共通点が見えてきます。 大人はビールかタバコを嗜む。憧れの女性は踏切の向こうにいるか、誰かからもらった結婚指輪をしていて、自分の元には来ない。この辺はお決まりの表現として出てきます。

α:新海監督は何を表現したいのだろう?

共通するのは童貞への郷愁なんじゃないでしょうか。純粋で、些細なことでドキドキした。初恋の相手と一緒になるため、早く大人になりたかった。でも初恋の相手とは結ばれなくて、別の女性を抱いたところで、むしろドキドキが減るばかり。童貞の頃に戻りてえ!と。

少年が恋愛において、仕事において大人になろうとする過程を描いてますが、何をもって大人になるといえるか。一つには自分への固執を捨てて、何かになりきれるかだと思います。

『秒速〜』の貴樹は、恋愛としては明里に執着して地味子とは上手くいかない。仕事も一旦企業に属するけれども馴染めずに、フリーのプログラマー、人と極力関わらない仕事を選ぶ。努力はしたけど結果的に自分から抜け出せない。

言の葉の庭』の孝雄は、花澤先生とは一応上手くいくが離れてしまう。仕事は企業に属することを嫌悪して靴職人修行を始める。スタートを切ったところで終わるから、この先どうなるかは分からないですね。

君の名は。』は特殊で、見ず知らずの別人になるところからスタートする。こうなると自分に固執することは不可能なので、過去の2作とは全く異なる。最終的に主人公は大人になったのかなと思います。恋愛の対象を奥寺先輩から三葉に切り替えることができた。仕事はゼネコンを希望し、大組織、社会の中にいることを選んだ。作中、瀧がスーツが似合ってないと言われるのは、これまでの作品では企業に属することを拒否してきたけど今回は就活をする、照れなのかもしれません。

個人的な感想を言えば、3作では『秒速~』が良かったです。童貞のシミュレーションが絶妙で苦笑いしながら楽しめるし、徹底的なバッドエンドも、もしもの体験として考えさせられる。 『言の葉の庭』『君の名は。』とポジティブに、また分かりやすくなって、新海監督の知名度も増していきましたが、実は次回作で観客を絶望の底に突き落とす前フリだった、ってことになると良いな。

語り Ω / 編集 α

引用

*1:Ωは映画を見る際に、過去作品からの引用やイメージの拝借などの繋がり把握した上で立体的に捉えようとする男であるため、元ネタや似たシーンがある映画の話しが沢山でてくる

*2:が、映画に詳しくない者からすると、本当にそれは元ネタなのか?と疑問を持たざるを得ないような作品が引き合いに出されたりする所が魅力。