映画が終わらない

映画館の暗がりが落ち着くΩと京アニ好きのαによる与太話

誰も知らない巨大不明生物『シン・ゴジラ』

シン・ゴジラ

漂流船

f:id:CobaltBombAO:20171111231122g:plain 被曝する栄光丸

f:id:CobaltBombAO:20171111231123g:plain ゴジラ東京湾を漂流するGLORY MARU

f:id:CobaltBombAO:20171111231124g:plain サンゲリア』ニューヨーク湾を漂流するMORNING LADYⅡ。シークエンスがあまりにも似ているが、イタリアのゾンビ映画を真似る理由がない。

東京湾を漂流する船から始まりますが、これは初代『ゴジラ』からの引用です。1954年3月にビキニ環礁で行われたアメリカの水爆実験に巻き込まれて、漁船第五福竜丸が被曝する。『ゴジラ』が公開されたのが1954年11月。第五福竜丸の事件を踏まえ、水爆実験によって目覚めたゴジラによって、貨物船栄光丸が被曝するシーンから始まります。
シン・ゴジラ』で漂流しているのはGLORY MARUで、栄光丸に引っ掛けた名前です。仕切り直した『ゴジラ』(1984)も漂流船から、カイジュウ映画『パシフィック・リム』(2013)も、漁船がカイジュウと遭遇するところから始まりました。
怪獣映画ではないのですが、異様にそっくりなのが『サンゲリア』(1979)。ニューヨーク湾を漂流する無人のヨット、無線でのやり取り、パトロール員が乗り込んでみたら…こちらではゾンビが飛び出します。

α:ニコニコ動画風の画像が混じるのは庵野監督と川上量生に繋がりがあるからかな。川上量生庵野秀明の会社カラーの取締役をやってる。
ニュース番組風の映像も混じるけど、テレビ画面で観ると普段見てる番組と変わらないから、変にスケールダウンしてみえる。映画館で観たほうがいい作品だと思う。

日本のいちばん長い日

f:id:CobaltBombAO:20171111231125g:plain 大河内清次内閣総理大臣(大杉漣)

f:id:CobaltBombAO:20171111231126g:plain 『日本のいちばん長い日』鈴木貫太郎内閣総理大臣(笠智衆)

前半の会議シーンの連続は岡本喜八監督作『日本のいちばん長い日』(1967)を踏まえています。昭和20年8月14日から15日にかけて開かれた、ポツダム宣言を受諾して降伏するか否かの会議と混乱を再現した映画。名前と役職がテロップで出るところもよく似ています。
岡本喜八監督の写真が、作中で牧吾郎博士として使われてますね。

蒲田上陸

f:id:CobaltBombAO:20171111231127g:plain 東日本大震災津波を思い起こさせる

α:ボートや瓦礫が押し寄せるシーンは東日本大震災津波を思い起こさせるよね。監督自体は、あの震災や原発の対応に意見がしたいというよりは、東京のど真ん中で原発事故のような大災害が起こったらどうなるというシミュレーションがしたかったように思う。

作中で東日本大震災について触れられることはないね。被害を受けた方、関係者がたくさんいるから触れられないと思うんだけど。

α:蒲田の第二形態は本当に気持ち悪い。最初に見た時にゴジラだとは思わなくて、これとゴジラが戦うんだと思った。

事前情報が全然出なかったんだよね。話もゴジラの形態も分からなかった。

α:ゴジラって元々何なの?

最初のだと水爆実験がきっかけで出てきた恐竜の生き残り。これまでのゴジラ映画は基本的に1954年にゴジラが出現したことが事実としてあって、映画の登場人物はゴジラを知っているんだけど、本作では過去のゴジラはなかったことになっている。作中の人物はゴジラを知らないし、観客としてもイメージと違うゴジラが出てくる。そういう意味で新ゴジラではある。

タバ作戦〜都心壊滅

f:id:CobaltBombAO:20171111231128g:plain ゴジラの身長が118.5m、いちばん高いマンションがパークシティ武蔵小杉ミッドスカイタワーで203.5m

多摩川自衛隊が迎え撃ちますが、ここの流れが見事だと思います。武蔵小杉駅周辺は再開発が進んでいて、150〜200mのマンションが局所的に建っているので、ゴジラの高さの比較がしやすい。そこから北に1km、多摩川を越えて東京に入られたら負けというのも分かりやすい。
攻撃ヘリの準備完了から順に統合幕僚長防衛大臣へと状況が伝えられ、総理大臣が攻撃を指示すると、それが逆に戻っていく。攻撃は20mmガトリング砲から始まって、戦車砲、ロケット、爆撃とエスカレート。しかしゴジラには効果がない。日本の国家最大の意思と武力をぶつけても止められない、ゴジラの圧倒的な強さが分かりやすく示されます。

α:躊躇して会議を繰り返しているうちにどんどん被害が広がっていく。日本は会社もそうだけど、ルールがいっぱいある割には、現場の裁量や決定権が無い。避難できなくて数人被害にあっても、それで何十万人助かるならそれでいいとような判断が出来ないか?この映画自体はどっちがいいという結論は出してないけど、日本の組織のなかなか意思決定しない、根本の解決に着手しないもどかしさを描いている気がする。

f:id:CobaltBombAO:20171111231129g:plain ヘリコプターはゴジラを攻撃してないので、熱くなってついうっかり

α:ゴジラが総理たちをぶっ殺すじゃない。高齢社会で金や権力を持った老人ばかりだと世の中硬直しちゃうから、どこかでリセットしたいという監督の願望が出ている。とはいえ庵野秀明エヴァンゲリオンで大成功した追われる側の監督、自分の立場を顧みないでこういった主張をしているのは好感をもてる。

立川広域防災基地

f:id:CobaltBombAO:20171111231130g:plain 東京都立川市のモノレール基地

f:id:CobaltBombAO:20171111231131g:plain ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破第三新東京市のモノレール基地

ゴジラに都心を壊滅させられて、政府機能は立川に移動します。私は立川のシネマシティで観てたんですけど、すぐ近くで映画が進行している、居ながらにしてここが聖地なのかと思うと、とても興奮しました。
矢口とカヨコが核兵器の使用について話すシーン、背景はモノレールの基地ですが『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009)でも似たようなシーンがありましたね。

ヤシオリ作戦

f:id:CobaltBombAO:20171111231132g:plain 『日本誕生』ヤシオリノサケを飲むヤマタノオロチ

ヤシオリ作戦の名前は、日本神話のヤマタノオロチ退治に用いられたヤシオリノサケから取られています。血液凝固剤を運ぶポンプ車のコールサインはアメノハバキリで、これは首を切り落とした剣の名前。
日本神話を題材にした映画としては『日本誕生』(1959)。三船敏郎扮するスサノオノミコトと、円谷英二特撮監督によるヤマタノオロチの対決シーンがあります。ヤマタノオロチは八首龍なので、ゴジラというよりはキングギドラの原型ですね。
ヤマタノオロチについていえば、庵野秀明樋口真嗣は過去に映画『八岐之大蛇の逆襲』(1984)を撮っています。(庵野秀明が出演・ミニチュア制作、樋口真嗣が特撮監督。)コメディ色の強い作品ですが、怪獣と軍隊による市街戦はリアルで、本作に通ずるところがあると思います。

無人在来線爆弾

f:id:CobaltBombAO:20171111231133g:plain キングコング』高架の電車を引き倒す世界8番目の不思議

f:id:CobaltBombAO:20171111231134g:plain 螺旋状に飛び上がる無人在来線爆弾

f:id:CobaltBombAO:20171111231135g:plain 電車男』オープニングアニメ「月面兎兵器ミーナ

爆弾を詰め込んだ電車、新幹線をゴジラにぶつけて攻撃しますが、怪獣映画に電車は付き物です。古くは『キングコング』(1933)、ニューヨークを走る電車を掴んで暴れます。『ゴジラ』(1954)でも電車を、『ゴジラ』(1984)では新幹線を襲っています。無人在来線爆弾はゴジラの周りで螺旋状に飛び跳ねて爆発しますが、テレビドラマ版の『電車男』(2005)のオープニングアニメみたいだと思いました。これは元ネタがDAICON IVですね。

太陽を盗んだ男

f:id:CobaltBombAO:20171111231136g:plain 科学技術館六芒星の外壁

f:id:CobaltBombAO:20171111231137g:plain 太陽を盗んだ男』山下警部、撃たれて蜂の巣になりながら見事な伸身宙返り

f:id:CobaltBombAO:20171111231138g:plain 仁義なき戦い』背景は原爆のキノコ雲

矢口が指揮を執るのは科学技術館の屋上、六芒星がかたどられた外壁が特徴的です。皇居の北、東京のほぼ中心にある科学振興施設で事態の行く末を見守るというのが象徴的です。
ここは沢田研二が原爆をDIYする映画『太陽を盗んだ男』(1979)で出てきます。プルトニウムを盗んで原爆を作った城戸(沢田研二)と山下警部(菅原文太)が戦うのですが、山下警部は拳銃でいくら撃たれても死なない!おそらく山下警部は原子力で動いているのではないか。菅原文太といえば『仁義なき戦い』(1973)ですが、あの映画は広島の原爆投下から始まり、その暴力性の連鎖としてヤクザ達の抗争が描かれました。それを踏まえ、山下警部は核兵器の化身でありながら人類に警鐘を鳴らす、ゴジラの様な役回りをしたのではないかと思っています。

ゴジラの尾〜スタッフロール

f:id:CobaltBombAO:20171111231139g:plain 『日本誕生』世界のミフネ、アメノムラクモノツルギをゲット!

最後は人間の様なものに変わりつつあるゴジラの尾で終わります。ヤマタノオロチ退治では、尾を叩き斬ろうとしたら、中から三種の神器の一つであるアメノムラクモノツルギ(クサナギノツルギ)が出てきました。ゴジラの尾に何があるのか。人型でレーザーを出す神がかった武力となると、巨神兵ですかね。庵野監督の作品世界にリンクしていきそうで、楽しみでもあり、商売上手いなと思ったり。

α:恋愛要素が一切なくて良かったね。最後にキスシーンとか入れろって言われそうだけど、ないのがいい。

キャストの最後には野村萬斎。出てたかな?と思ったらゴジラモーションキャプチャーでしたね。そう考えると、鎌倉から上がってきてノソノソ歩くゴジラ野村萬斎に見えてくる。蒲田のも演じたのかな。

α:演じたんじゃないの。巨大野村萬斎が這って迫ってきたら、自衛隊はもっと早く攻撃してたと思う。シンゴジラの続編は、ゴジラという体の巨大野村萬斎と、帰ってきたウルトラマンという体の巨大庵野秀明の対決を見てみたい!

感想

私は公開初日の夜、立川シネマシティの爆音上映で観ました。劇場内は40、50代の会社帰りのオタク達で満員、最高の環境でした。意外な展開にどよめき、静かな興奮が高まっていって、映画が終わった時には割れんばかりの拍手喝采。最初はいまさら日本でゴジラなんてと思ってましたが、良かったです。庵野監督の次回作はシン・ヱヴァンゲリヲン:||でしょうか。本作から取り入れられる部分もあるでしょうし、楽しみです。

引用

童貞への郷愁『君の名は。』『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』

君の名は。

男女入れ替わり と おっぱい

f:id:CobaltBombAO:20171026212429g:plain 乳首は0回

冒頭は作中の事件が一通り終わった、エンディングの直前から始まりますね。瀧君は就活中、三葉ちゃんも東京在中です。

まず入れ替わって胸を揉むんですが、なんで胸は映さないんですかね。男女入れ替わり映画の元祖、大林宣彦監督の『転校生』(1982)を見た*1んですけど、中3男子(尾身としのり)と中3女子(小林聡美)が入れ替わる。小林聡美は撮影時16か17歳かと思いますが、ばんばん胸を出してます。そのせいなのか、DVD販売はしてるんですけど、レンタルは古いVHSだけです。三葉ちゃんにも頑張ってほしかった。

f:id:CobaltBombAO:20171026214602p:plain 『転校生』乳首は3回。

あと胸を揉むシーンで思い出したのは『ヒドゥン』(1987)ですね。ナメクジみたいなエイリアンが人体を乗っ取って、殺人や強盗を繰り返す映画なんですけど、ストリッパーの体を乗っ取ったときにこれが女の体かと胸を揉みしだくシーンがあります。だから瀧君の正体はナメクジ型エイリアンかと推測しながら観てたのですが、そんなことはなかったです。*2

f:id:CobaltBombAO:20171026215330g:plain 『ヒドゥン』見直してみたら『君の名は。』とそっくりだ!

途中から、三葉ちゃんのパジャマが変わって、ブラジャーの肩ひもが見えます。当初はノーブラでしたが、胸を直に揉まれないように備えてたんですね。ブラジャーで意思表示する、芸の細かさに映画館で泣きました。

f:id:CobaltBombAO:20171026220205g:plain おそらく瀧君はブラジャーを外せないので、かなり効果的。

口噛み酒は人生の岐路

f:id:CobaltBombAO:20171026215550g:plain 巫女の口噛み酒

物語のカギとして口噛み酒が登場しますが、口噛み酒といえば『セデック・バレ』(2011)です。日本統治時代の台湾で先住民のセデック族が反乱を起こす、史実を基にした映画(2部作4時間36分)。セデック族が日本兵を宴会に誘うんですが、「口噛み酒なんて不潔なものが飲めるか!」とぶち壊してしまう。他いろいろあって反乱を起こすんですが、セデック族は首狩り族だったので、日本人の首がポンポン飛びます。特に後編は2時間概ねポンポン。

マユゴロウの大火で由来は分からなくなっていますが、きっと宮水家はセデック族と関係がありますよ。チャラチャラした男の子が口噛み酒を見て「よくやるよ」なんてバカにしてますが、この後彼の首が飛びます。

α:いや、最後の方でローソンのレジ打ちやってますよ。

口噛み酒を勧められたら、それは人生の岐路です。飲めば彼女ができるし、断れば首が飛ぶ。迷わず飲みましょう。

f:id:CobaltBombAO:20171026215719g:plain セデック・バレ』セデック族の口噛み酒(左手にお猪口)

都立高校生の日常

入れ替わった2人の日常が描かれます。男3人でおしゃれなカフェに通っていますが、元都立高校生としてはどうですか。

α:あり得ない!このパンケーキで2000円とかするでしょ。ファミレスかマックがいいとこです。山の手の私立高校に通っているような一部の子ならありえますが、一般的な都立高校生には縁がない世界観ですね・・・。田舎の学生の東京に対する憧れを見て取れます。

f:id:CobaltBombAO:20171026215804g:plain 聖徳記念絵画館明治天皇の愛馬、金華山号の剥製もある。

左手に描かれている建物ですが、神宮外苑の中心にある聖徳記念絵画館ですね。ここオススメです。明治天皇の生涯を、前半を日本画40枚、後半を洋画40枚の展示で伝えています。僕が行った時はお客さんが数人しかいなくて、時間が止まったみたいで良かったです。

f:id:CobaltBombAO:20171026220110g:plain恋敵の肩を持ってしまって「私何やってるんだろう…」ありがちな展開で吹いた。

α:なんで三葉ちゃんは泣いてるの?

瀧君のことが好きなのに、先輩との仲を取り持っちゃったからでしょ。

α:え!好きになるきっかけとか展開ってあった?

無いですね。ここまで日報を交わしているだけで、本人と会ったこともない。ダイジェスト的な前前前世のPVが流れれば、なんとなく惹かれ合ってる感じになるんでしょう。

忘却が話の推進力

f:id:CobaltBombAO:20171026220148g:plain ファインディング・ドリー』フラッシュバックする魚

糸守町に辿りつくんですけど、ここで観客は「「3年前に起きた隕石落下という大災害」をすっかり忘れている瀧君」に衝撃を受けます。隕石落下は瀧君が中学生の時に体験してるわけで、夢とは関係ない、ただの物忘れです。事件は既に終わっていて、ここまで思い出してるだけ。病的なまでの物忘れは『ファインディング・ドリー』(2016)のドリーに匹敵します。2016年夏は物忘れ映画の夏だったんですね。

f:id:CobaltBombAO:20171026220526g:plain フラッシュバックする人間

物忘れついでに糸守町に着いた途端に携帯電話の日記が消えますが、なぜ消えたかのかさっぱり分からない。三葉ちゃんが死んで関連するものが消えるのだったら、先輩とのデートの翌日に消えてるはずだし。いろいろ考えたんですが、たぶん偶然壊れたんでしょうね。突然故障する事はありますから、バックアップ取ってないと大変です。

糸守町にて

f:id:CobaltBombAO:20171026220625g:plain 誰か手の傷の意味を教えてください。

映画館で見た時に、ラーメン屋のおじさんの手の傷に気付いたんです。それで周りの『君の名は。』を見た人に、あの傷なんですかねって聞いたんですが、一体何を言っているのかと狂人扱いされました。

α:確かに左手にミミズ腫れのようなものがある。

私は狂っていない!思うに、ラーメン屋のおじさんもセデック族の生き残りで、傷は日本兵と戦った時の銃創なんじゃないでしょうか。

α:狂ってる…!隕石が落下した時に破片か何か当たったんじゃないの?

まあそんなところでしょうね。

f:id:CobaltBombAO:20171026220801g:plain この間、高校生の司は隣でミルクティーを飲んで絶望している。

旅館で奥寺先輩が唐突にタバコを喫いだすので吹き出しました。憧れの先輩と同じ部屋に泊まれるのだから、男子高校生としては当然あわよくばと思います。が、昼間あんなに無邪気だった先輩は、急に越えられない二十歳の壁を見せつけて突き放します。先輩は映画の最後でも誰かとの結婚指輪を見せつけてきますから、イヤらしい人です。

f:id:CobaltBombAO:20171026220119g:plain 彗星は既に糸守町を通り過ぎているが、奇跡が起きて町が壊滅する。

黄昏時のシーンなんですが、夕日が沈んでいく画面奥が西、彗星もかなり西に進んでいます。地球は画面手前に自転しているわけだから、彗星がすでに通り過ぎた糸守に落下するのはおかしいのでは。もっと西の、ヨーロッパとかに落ちるのだったら分かるけど。

α:新海監督が神の見えざる手で彗星の時間を巻き戻したんですね。映像的に彗星が空を駆けていくところも見せたいし、糸守に落下もさせたい。彗星がどこに見えるかなんてどうでもいいですよ。

あと彗星の名前なんですが、ティアマトってメソポタミアの女神で、海や洪水を象徴するらしいんです。だからこんな名前をつけたのがそもそもの間違いです。彗星にティアマトって名付けちゃダメ!

再会

最後、並走する電車でお互いに気付いて、慌てて探します。瀧君が降りたのが新宿駅、三葉ちゃんが降りたのが千駄ヶ谷駅です。二人とも最寄り駅で降りたと想定したのなら、中間地点の代々木駅周辺で遭遇するはず。しかし再会したのは両駅から東の四谷須賀神社前の階段。新宿駅からは歩いて30分もかかる住宅地のど真ん中です。普通はこんな所での再会はあり得ない。

α:代々木駅周辺には、監督のお眼鏡にかなうエモい階段がなかったんでしょう。

全体の展開で引っかかるところがいくつかあるんですが、矛盾のない解釈があるとすれば、全部夢だったのかなと。最初と最後だけが現実。 瀧君目線でいくと、女の子と入れ替わる不思議な夢を見た。そうしたら街中でそっくりな子を発見。30分も探し回って、思いがけない場所で再会。どこかで会ったことない?と勇気を出してナンパしたら、女の子が突然泣き出した。これなら筋が通る!

α:なんか怖いよ!

作り手としては整合性をそこまで重視してないんでしょうね。細かい辻褄合わせも検討したと思うんですが、それよりもエモーショナルな映像と話を選択し、結果爆発的にヒットした。20代の知り合いが、アニメ的にこうなれば良いのに!と思ったことがその通り起こるから、めちゃくちゃアガると言ってて、そういうベスト盤的な面白さがあると思いました。

α:この映画を見た時に一番初めに思い描いた言葉は、EDMでした。新海誠のこれまでの作品をマッシュアップしたような既視感のあるシーンやカットの繫ぎで盛り上がるし(花澤先生♡)特に度肝を抜かれたのが、震災の傷が癒えたとは言えない2016年(企画段階だと2014年か2015年でしょうか)に、未曾有の災害で亡くなった死者が生きかえって再び出会えるという、流石にサンプリングするには躊躇するようなネタを、エモに昇華させて、そしてほとんど疑問を持たせずに広めていた事です。新海誠はEDMというかナードコア界のトップDJになれると予感したのを憶えています。

言の葉の庭

f:id:CobaltBombAO:20171026220950j:plain こんな高校生がいたら思い切りぶつかります。

冒頭のモノローグ、満員電車で不快なものとして、まず制服とスーツが挙げられます。つまり進学、就職して会社員という、大多数の人が選ぶ道を主人公の孝雄は下に見ている。自分は将来どうやって食べていくのかという焦りは分かりますが、だからと言って他人を蔑むのは良くない。満員のホームに立ち止まり、空を眺めて通勤・通学者をバカにするポエムを吟じてたらボコボコにされますよ。 女性が不快そうに主人公を睨みながら通り過ぎていきます。思春期の未熟さを貫きつつ、批判的な部分が時々混ざるバランスがちょっと不思議です。

新宿御苑に200円のチケットを買って入っていますが、年間パスポートを買った方がお得です。一般は2000円、高校生1000円、高校生の孝雄は5回行けば元が取れますよ! 花澤先生がいる東屋、午前中行ってきましたよ。

α:花澤先生いた?

いや、オタクっぽい男性が3人、携帯いじってた。

α:現実はそんなもんですね。

ビールとチョコレートは、大人と子供の象徴なんでしょう。花澤先生自身が27歳の私は15歳の私より賢くないと言うんですが、仕事に行けないのは子供で我慢が足りないからってことなんでしょうか。ちょっとここは納得がいかなくて。仕事に対して真剣だからこそ、ストレスで参って味覚障害にまで至ったんだと思います。カウンセリングを受けるとか、積極的に治療する描写があっても良かった。

f:id:CobaltBombAO:20171026221037j:plain 初々しい子供

f:id:CobaltBombAO:20171026221108g:plain フロム・ダスク・ティル・ドーン』どうしようもない大人

足の描き方がフェティッシュな感じですね。酒と足で思い出したのは『フロム・ダスク・ティル・ドーン』。女性の足に垂らした酒を、クエンティン・タランティーノがつま先から飲みます。東屋でこんなことやってたらびっくりしますが。

最後、孝雄が飛び出していきますが、帰るでもなく外階段の踊り場で待っている。そして花澤先生がはじめから嫌いだったと言いますが、そんなことはないわけです。俺をバカにしたとか、プライドを守るための強がりでしかない。この辺は花澤先生と違ってちゃんと幼いなと思います。 花澤先生は四国に帰ってますが、『君の名は。』でも先生やってましたね。

秒速5センチメートル

「栃木って遠いのかな…」が絶妙にイタくて最高ですね。周りに彼女がいることを自慢したいけど、冷やかされるのも嫌だから、思わせぶりなセリフで相手からの詮索を待つ。

f:id:CobaltBombAO:20171026220305j:plain ここ、どこ…

α:ここどこですか?別の惑星から地球を見てるの?

貴樹君が携帯電話に書いてる、明里ちゃんがヒロインのラノベじゃないですか。 第二部のコスモナウトってタイトルはなんですかね。ロシア語だと宇宙飛行士はコスモノートっていうみたいですけど、作中にロシアは出てこない。 立ち寄るコンビニは『君の名は。』でも同じものが出てましたね。 貴樹君は明里ちゃんに執着し続けますが、花苗ちゃんは波に乗れるようになって、貴樹君にケリをつけられるんですね。

第三部で貴樹君は年齢としては成人して、ビール飲んでタバコも吸うようになります。地味子と事後のカットもあって、女性を抱いたこともあるんだけど、明里ちゃんから脱却できない。対する明里ちゃんの薬指には誰かからもらった結婚指輪がはまっていて、貴樹くんとの事はいい思い出ぐらいになっている。第二部の花苗ちゃんもそうですが、女性陣は貴樹君を置いて前進できた。

三作品の総括

続けてみると共通点が見えてきます。 大人はビールかタバコを嗜む。憧れの女性は踏切の向こうにいるか、誰かからもらった結婚指輪をしていて、自分の元には来ない。この辺はお決まりの表現として出てきます。

α:新海監督は何を表現したいのだろう?

共通するのは童貞への郷愁なんじゃないでしょうか。純粋で、些細なことでドキドキした。初恋の相手と一緒になるため、早く大人になりたかった。でも初恋の相手とは結ばれなくて、別の女性を抱いたところで、むしろドキドキが減るばかり。童貞の頃に戻りてえ!と。

少年が恋愛において、仕事において大人になろうとする過程を描いてますが、何をもって大人になるといえるか。一つには自分への固執を捨てて、何かになりきれるかだと思います。

『秒速〜』の貴樹は、恋愛としては明里に執着して地味子とは上手くいかない。仕事も一旦企業に属するけれども馴染めずに、フリーのプログラマー、人と極力関わらない仕事を選ぶ。努力はしたけど結果的に自分から抜け出せない。

言の葉の庭』の孝雄は、花澤先生とは一応上手くいくが離れてしまう。仕事は企業に属することを嫌悪して靴職人修行を始める。スタートを切ったところで終わるから、この先どうなるかは分からないですね。

君の名は。』は特殊で、見ず知らずの別人になるところからスタートする。こうなると自分に固執することは不可能なので、過去の2作とは全く異なる。最終的に主人公は大人になったのかなと思います。恋愛の対象を奥寺先輩から三葉に切り替えることができた。仕事はゼネコンを希望し、大組織、社会の中にいることを選んだ。作中、瀧がスーツが似合ってないと言われるのは、これまでの作品では企業に属することを拒否してきたけど今回は就活をする、照れなのかもしれません。

個人的な感想を言えば、3作では『秒速~』が良かったです。童貞のシミュレーションが絶妙で苦笑いしながら楽しめるし、徹底的なバッドエンドも、もしもの体験として考えさせられる。 『言の葉の庭』『君の名は。』とポジティブに、また分かりやすくなって、新海監督の知名度も増していきましたが、実は次回作で観客を絶望の底に突き落とす前フリだった、ってことになると良いな。

語り Ω / 編集 α

引用

*1:Ωは映画を見る際に、過去作品からの引用やイメージの拝借などの繋がり把握した上で立体的に捉えようとする男であるため、元ネタや似たシーンがある映画の話しが沢山でてくる

*2:が、映画に詳しくない者からすると、本当にそれは元ネタなのか?と疑問を持たざるを得ないような作品が引き合いに出されたりする所が魅力。